2021年4月28日水曜日

【偽りの平和主義と戦う 第2回】国際連合と安全保障理事会

今の国際社会を語るうえで、国際連合という組織が欠かせなくなってきたのは、とうの昔のことでした。今や国際連合は地球を代表する「世界政府」としての役割を担っていると多くの人たちが認識しています。その例として、未来世界を描くSF作品では、国際連合を「世界連邦」だとか「地球連邦」だとかいって扱っているのがあります。

みなさんも国際連合は平和主義を掲げ、世界に平和をもたらした、なくてはならない組織ないし機関だと考えているのではないでしょうか。しかし、この国際連合の結成された歴史を見るに、本当にそうなのだろうかと僕は疑問に思うことがあるのです。

国際連合は、英語では「United Nations」と言い、第2次世界大戦の終結する直前に作られました。終戦後ではなく、終戦前に作られたというのも一つのポイントかも知れません。その国際連合が作られたときには、もう第2次大戦も、ファシズム国家の連合である枢軸国(日独伊)は敗戦確実で、連合国(米英ソ中など)の勝利がもう決まっているという時期でした。そのため、連合国が勝って、戦争が終結した後の国際社会の体制をもうあらかじめ定めておこうということで、連合国の国々は早くも国際連合に加盟したのでした。

つまり、当初国際連合に加盟していた国は、全て第2次大戦の連合国だったということです。そして、中でも大国であるアメリカ合衆国、大英帝国(イギリス)、ソビエト連邦、中華民国、フランス共和国は、連合国のリーダーとして、国際連合の中で特権的地位を得ることが決められたのです(※)。

国際連合には、全加盟国(当時は50あまり)が参加する会議「総会」が設置されていますが、それではたくさんの意見が出て収拾が付かなくなるのではということで、15くらいの少数の選ばれた国々が、重要なことを議論する会議「安全保障理事会」(以下、「安保理」と呼ぶ)が設置されました。このとき、この会議に参加する国々を「理事国」というのですが、その中でも先ほど挙げた米英ソ中仏の5か国は、永久にずっとその「理事国」の地位にあることが出来る「常任理事国」という国々に定められました(他の理事国は全加盟国の選挙で選ばれる)。更に、これらの常任理事国は、安保理の会議で、そのうちの1か国でも反対すると、その議案は廃案になるという権限を持っていました。これを「拒否権」と言います。例えば、安保理で15か国のうち、14か国が議案に賛成しても、米国だけが反対すれば、廃案になってしまうということです。国際連合にこのような制度があることは、知っている方もかなり多いのではないかと推測します。

話は変わって、実は戦前にも国際連合に似たような機関が作られていたのはご存知かと思います。「国際連盟」は、第1次世界大戦後、米国が主導してスイスに作られました。これは今の国際連合に先駆ける世界で初めての試みで、画期的な国際協調の方法でした。しかし、国際連盟には、国際平和を目指す組織として極めて重大な欠陥があったのは、国際連盟が第2次大戦を防げなかった事実を振り返れば明らかなことです。

まず、総会は全加盟国の同意が得られなければ、意志決定をすることが出来ませんでした。そのため、様々な案が出てもだいたいは廃案になってしまい、その結果とても組織としての動きが鈍い、何かとても重い物を担いで活動しているようにみえるものだったのです。

そしてもう一つ。それは、米国やソ連などの大国が参加していなかったということです。なぜこれらの国々が国際連盟に参加していなかったのはここでは省かせていただきますが、これにより、国際連盟が世界で「治める」ことのできる範囲が縮まってしまいました。これにより、国際連盟がああだこうだ言っても、国々に無視されるなどしてしまう、意味をなさないものへと国際連盟の組織は次第に変わってきてしまいました。

さて、話を国際連合に戻しましょう。国際連合は、設立されたときに国際連盟のこれらの欠陥の穴を埋めるように、組織が設計されました。例えば、総会での全会一致で物事を決める、というのはさすがにやめて、過半数で決定が出来るようになりました。また、国際連合にはちゃんと多くの大国が参加しています。

これらの反省を踏まえて国際連合は設計されたようです。しかし、国際連合は本当にこれで世界に平和をもたらすことができるようになったのでしょうか。いいえ、弊害はすぐに現れました。

米国とソ連が、互いのイデオロギーを巡って対立を起こす、いわゆる「冷戦」が始まりました。すると、安保理の議論の場で、その2か国は、自国に都合が悪く、相手国に都合のよくなる議案には拒否権を行使しまくりました。これにより、安保理では、さまざまな議案が廃案になってしまい、意思決定が出来なくなってしまいました。結局、冷戦が終わった今でも拒否権制度は変わっていません。もし今、米ロ開戦、米中開戦が起きても、もはや戦前の国際連盟のように何もできないのは明らかです(今まで国際連合が為してきた平和貢献活動を否定するものではありません)。こういった大国をひたすらなだめることくらいしか出来ないように見えます。

これが顕著になった事例が、まるで狙ったかのように本当に最近に発生しました。2021.2.1にミャンマーで、選挙結果を覆そうと企てた国軍がクーデターを起こし、アウン・サン・スー・チー国家顧問など今まで民主的統治を進めてきた要人たちを拘束しました。当然ながら国際連合の安保理は何回も会合をしましたが、クーデターを非難する声明は、きょう現在1つも出ていないのです。原因は、中華人民共和国など、国内でも強権的統治を続ける独裁国家が、ミャンマー国軍に同調していて、特に中華人民共和国は、「国際社会が取るあらゆる行動はミャンマーの平和と安定に貢献すべきで、対立の激化や情勢の複雑化につながることは避けるべきだ」(2021.2.2/19:46配信、日テレNEWS24より)として非難に消極的、むしろそうしたくないとして、拒否権ではありませんが、安保理の常任理事国としての権利を国際平和に反する形で行使しているからです。なお、中華人民共和国のこのような態度が、なぜ国際平和に良い結果を及ぼさないかは、第3回以降で説明いたします。

このように、米英ソ中仏に国際連合における特権を与えたことによって、現在(今は米英ロ中仏)も本来世界の普遍的国際機関がすべき行動がうまくとれないことが多々あるのです。権利を私物化する常任理事国にも責任がありますが、国際連合の制度そのものも問われるべきではないでしょうか。


ここで今回はまとめといたしましょう。

まとめ②

  1. 国際連合は、第2次大戦終結前に、主に連合国の国々によって結成された国際機関で、後に旧枢軸国も加盟した。
  2. 国際連合の加盟国のうち、米英ロ中仏には安保理における拒否権などの特権が与えられていて、たまにそれらの国々がこれらの権利を私物化して行使することで、国際連合が平和のために機能しないことがある。
(2021.3.13)

※(重要な注釈

ここでは、国際連合は第2次大戦の連合国によって結成された組織だと説明しましたが、必ずしも旧枢軸国に対して、不利な立場を与えている物ではありません。たしかに、国際連合の憲法に当たる国際連合憲章には、「敵国条項」という規定が現在も存在し、日独などの旧枢軸国との間で戦争が発生した場合、加盟国(連合国)は安保理の同意なしで攻撃が可能になるというものです。ただ、1990年代には国際連合総会で、これらの敵国条項を削除するという決意がなされました。現在も敵国条項が削除されていないのは、国際連合憲章の改訂手続きが何を改定するかによらず複雑迂遠だからなのです。

また、「連合国=国際連合」というわけでは必ずしもありません。よく、一部の日本人は「『連合国=国際連合』なのに、日本はそれをごまかすために『United Nations』を『国際連合』と訳した」と言いながら、国際連合の中国語訳が「联合国」(联=連)だということを挙げますが、それは全く当たりません。以下の、言語と翻訳の仕方のリストを見れば一目瞭然です。

日本語/連合国国際連合
英語/Allies or United NationsUnited Nations
中国語/同盟国联合国




2 件のコメント:

  1. その通り! 国連はアメリカの法律にも中国の法律にも勝てないです

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    1. コメントありがとうございます。誠意のないああいう国々には呆れますよね。

      削除

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