2021年4月25日日曜日

大ピンチ!スネ夫の答案【ドラえもん傑作ファイル・第1回】

 「ドラえもん傑作ファイル」では、僕のお気に入りの『ドラえもん』の短編の中から選りすぐりのモノを取り出して、そのあらすじと、僕の考察や感想を述べていこうと思います。

今回取り上げる短編は、『大ピンチ!スネ夫の答案』です。本当にこのシリーズ第1号に相応しい面白い作品です。

●基本データ
初出:「小学三年生」1982年9月号
単行本:てんとう虫コミックス第28巻第11話
大全集:第13巻第30話
アニメ化:1983年『テストはやっぱりこわい』、2007年『男の友情さく裂!?大ピンチ!スネ夫の答案』、2018年

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

学校でテストの返却が行われ、返ってきた自分の答案が久々の100点満点だったことに喜ぶスネ夫。貴重な機会なので早速みんなに自慢しようと、ジャイアンの下にやって来ようとするが、彼は非常に苛立っていた。彼はこのテストでたったの15点しか取れなかったのだ。おまけに、教室の向こうでは出木杉としずかが互いの点数を褒めあっており、ジャイアンの苛立ちは最高潮に。

そんな中、のび太も彼らの下にやって来る。ジャイアンはのび太にテストの感想を伺う。するとのび太は「思ったより良かった」と答える。それを聞いたジャイアンは良かったという言葉に反応して怒ってのび太の胸ぐらに掴みかかる。しかしのび太の「よかった」とはそれほどのレベルで、実は彼の点数は10点だった。それが分かった途端、ジャイアンは上機嫌になり、テストの点が悪かった同士仲良くしようとのび太に働きかけ、のび太もそれに応じる。

そしてジャイアンはスネ夫にも「お前も悪かったんだろ」と話しかける。本当はとても良い点数だったのに、そう言われてしまうと何とも答えづらい。スネ夫も思わず二つ返事でそう答えてしまい、スネ夫も点数が悪かったということにされてしまう。

今更自慢するとジャイアンたちの顰蹙を買うこととなる。最低拳骨は免れない。それでも自慢したい。この状況の矛盾に悩まされたスネ夫であったが、それで簡単に引かないのが彼の狡猾さだ。スネ夫は下校中、二人が談笑しているその後ろで、今日の自分の答案が母親に見せられないほどひどい内容だったと嘘の告白をし、帰宅するのをためらう振りをする。

そして更に、自分の答案をどこかに埋めてから帰ろうと宣言し、二人とは別れようとする。当然ジャイアンとのび太は、スネ夫の点数がそれほどにまで悪いのかとさすがに気になり、その答案を見てやろうと彼の後をつける。

スネ夫の思惑としては、あえて自分が埋め去った後の答案を二人に目の当たりにさせることで、間接的に自分の実力を見せつけようというものだ。作戦通りスネ夫は自分が答案を埋める場所を二人に目にさせようと、埋め場所である裏山の頂上の千年杉の根元に向かい、二人もそうとは知らずに付いていく。

ところが、ジャイアンとのび太は裏山に入ったところで担任の先生にばったり出くわしてしまい、お説教を頂戴することとなり、当然スネ夫も見失ってしまう。一方それを知らずに、やがて千年杉に到着して答案を埋めたスネ夫は、わざとらしくその場所を指さしながら、帰宅の途に就く。

答案の隠し場所を見損なったジャイアンとのび太は困ってしまったが、そこでのび太は早速ドラえもんの道具で何とかしてもらおうと思い、家に帰る。そして、ドラえもんには詳細の事情は話さずに、山中に落ちている1枚の紙を見つけてくれる道具をねだる。するとドラえもんはポケットから「ペーパーレーダー」と呼ばれる道具を取り出す。機密文書が風で飛んで行ってしまったときにそれを回収するための探知機で、それを聞いたのび太は急いで裏山に向かい、またジャイアンと合流する。

しかし、ペーパーレーダーが探知するものは、山に捨てられたチラシや紙のゴミばかりで、とても地面に埋まっている答案を探し出せそうには無かった。二人は答案探しをひとまず諦めることにした。

一方、スネ夫は母親に今日のテストの結果を問われる。答案は埋めてあるので後で言うと返したが、さては悪い点を取ったなと邪推され、仕方なく答案を取り戻しに出かける。念のため、ジャイアンたちが答案を見たがどうか確認するため、空き地にいた彼に、悟られないように答案をまさか見なかったよねと尋ねる。ところが返ってきたのは予想外の返答だった。少し戸惑うスネ夫だったが、機転を利かせて、今度は彼の前でわざとらしく、隠し場所を暗号で記したメモ書いて土管の裏にしまっておこうと宣言する。それを見たジャイアンはまたしてもスネ夫の思惑通りにメモを取り出して、のび太の元を訪ねる。

暗号には「千人の年より杉山家の窓の下 ヒント2おき」と書かれていた。スネ夫は二人の頭の出来に合わせて易しく作ったつもりだったが、さっぱり解読できない二人は困り果て、のび太はまたドラえもんの道具を貸してもらおうと家に戻る。

また詳しいことは言わないで道具をねだるのび太。そこでドラえもんは、22世紀のFBIが開発したどんな暗号でも解読できる「暗号解読機」という道具を出す。早速先ほどの暗号を通してみる。すると、「人のより山家窓の」、つまり「千年杉の下」という返答が返ってきた。隠し場所が分かった二人はそこに急行しようとまた出かける一方、ドラえもんは二人の行動を訝しがる。

その頃骨川邸では、スネ夫の母親の我慢が限界に達していた。スネ夫は耐えかねて、二人に答案を目の当たりにさせるのを待たずに、母親にちゃんとした100点の答案を見せようと彼女を連れて千年杉に案内する。

骨川親子よりも先に千年杉に到着したジャイアンとのび太は答案の隠し場所を前に若干興奮していたところだった。しかしそこに空から罵声が飛んで来る。声の主はタケコプターで二人を付けていたドラえもんだった。ドラえもんは、恥ずかしい答案を隠そうとするスネ夫に同情して、その秘密を暴こうとする行いの卑劣さと、友情の素晴らしさを涙ながらに説く。それを聞いたジャイアンとのび太は思わず心を打たれ、今までの自分たちの行動を悔いる。

と、そこで遅れて骨川親子が到着する。スネ夫が母親に答案を掘り起こさせられるのを眺めて、三人はスネ夫が遂に隠し場所を白状させられたのだと勝手に解釈し、何とか彼の答案を母親から守ろうと考える。ドラえもんはそこでポケットから「秘密書類焼き捨て銃」という、相手スパイに奪われた機密書類を遠くから焼却できる道具を取り出す。そして、スネ夫が地面の中から答案を取り出した瞬間に狙いを定め、引き金を引く。

その瞬間、千年杉の周辺は、ただの1枚の紙きれを焼くには眩し過ぎる光線と爆発音に包まれた。そして、遠くには、爆風に吹き飛ばされる骨川親子を目の当たりにして、スネ夫の秘密が永久に守られたことを歓喜する二人がいた。


考察

なんといっても、この話が素晴らしいのは、登場人物の関係、対立構図といったところにあるだろう。

普段典型的な話でいえば、構図は「のび太vsジャイアンとスネ夫」、つまり「力もち」(=腕力がある)かそうではない者の対立と言ったところになるだろう。だが、この話は「のび太とジャイアンvsスネ夫」の構図、つまり「いいあたま」(=知力)のある者とない者という構成になっている。そしてこの2つの構図に様々な介入者が出てくることで、物語が進行するのだ。

介入者の1人目は先生だ。先生が尾行中ののび太とジャイアン、つまり陣営の片方の行動を抑止させることで、物語が停止する。そしてその分物語の結末が遠くなったということだ。

2人目はもちろんスネ夫のママだ。スネ夫のママは、個人的に息子を擁護する立場にあると思っていたが、実はそうではないらしい。スネ夫は本来のび太とジャイアンだけに、自分の点が悪かったと思わせたかったのに、その弊害がこんなところにまで出てしまうとは、彼もあまり予想していなかったことだ。そして、彼女はこの話における最大の被害者でもある。ドラえもんに説得された後ののび太とジャイアンにとっても、スネ夫にとっても(自身の作戦遂行を妨害する)悪役であるから、最終的にこのような結果になってしまったのだろう。

3人目はドラえもんだ。ドラえもんは本来この漫画の主人公であるはずなのに、この話では登場がいつものパターンよりだいぶ遅れた。この要因には、そもそもの話の構図がいつもと違うからという由があろう。ともかく、この最終的な介入者によって、ドラえもんの思いとスネ夫の思惑はすれ違い、ああいうオチを生み出す結果となったのだ。

「のび太+ジャイアン」対「スネ夫」の基本対立構図、しかも元々事実に対する理解のあり方が異なるところに、様々な思惑を持った人物が関わり合い、介入し、それらを変化させ、さらなる思惑のすれ違いを引き起こし、オチで全てを爆散させる。この構図のマジックを、F先生はどのようにして発想したのかがいちばん気になるところだが、このマジックを創造できるF先生は本当に天才だということを思い起こさせてくれる。とにかく、ストーリーの進行と登場人物の構図のプロット、この作品が傑作だと言える理由はそこに収斂する。

この話は本当に、ドラえもんの数ある傑作の中でも傑作なのではないか、僕はそう確信する。

みなさんも読んだりみたりすることを強く勧めたい。

(2021.4.25)


次回:『具象化鏡』


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