2021年5月5日水曜日

水田版アニメの評価について―「アンチわさドラ」へのメッセージ


1.前史

ドラえもんは、1973年に初めて日本テレビ系列のテレビアニメで放映されました。しかし、この時は、アニメの制作会社の経営不調を理由にわずか6か月で打ち切られてしまいました。この頃はまだあまりドラえもんの単行本は発売されておらず、当時の新聞記事を見てもあまり知名度が高くなかったことが分かります。この日本テレビ版アニメは、原作の内容がかなりアレンジされていたようで、どうやら藤本氏もこれはオレのドラえもんじゃないなどとあまり評価はしていなかったように窺えます(注1)。

それから5年程経ち、ドラえもんが高い評判を得るようになると、今度はテレビ朝日系列でのアニメ化が試みられるようになりました。その後、順調にパイロット版(A2S.1『勉強べやの釣り堀』)が製作上映されて、遂に1979.4.1に初回放送を迎えました。その後、第1話としてA2.1『ゆめの町 ノビタランド』が放送されます。どうやら日本テレビ版アニメに敬意を払って、あえて1.1『未来の国からはるばると』などの、ドラえもんとのび太の出会いが描かれるエピソードをアニメ化しなかったようです。この時は平日(土曜含む)午後6時50分からの10分帯番組で、1日1話放送、日曜日には30分枠でいくつかのその週の話を再放送するという体制でした。

しかし、この頃のドラえもんは、エピソードごとに作画、キャラがバラバラで統一性が無かったといわれていて、これは帯放送の終わる1981.9まで続いたようです。

こうして始まった大山版アニメのキャスティングは、今でも人気を誇る大山のぶ代ドラえもん以下、小原乃梨子、野村道子、たてかべ和也、肝付兼太など言うまでもありません。20世紀に生まれた世代、つまり今の30から40代のみなさんは、この方々の声を聴いて育ったのです。

大山版アニメは、1981.10に金曜日7時の週一回放送に移行し、これは水田版アニメに変わった後も2019.10まで続くこととなります。1981年一杯はAパート再放送、B・Cパート新作という体制が続きます。そして、1982年以降は、Aパート新作、Bパート再放送の体制で続くようになり、これは番組終了の2005.3まで、特番をのぞいて維持されるのです。

1991年には10年ぶりにアニメオリジナルエピソードが作られます。その後、新作に占めるアニメオリジナルエピソードの割合はどんどん増してゆきます。1993年には「ドラえもん めいさく劇場」が計24話放送されます。そして、1999年には新作に占めるアニメオリジナルエピソードの割合が、ほぼ100パーセントとなります。唯一の原作由来のエピソードA2S.30『未来を守れ!のび太VSアリ軍団』は、45.15『ガラパ星からきた男』の初のアニメ化ですが、複雑なストーリー構成やタイムパラドックスを、視聴者に対応させるようにした結果、大幅にアレンジがなされており、実質的なアニメオリジナルエピソードに見えるようになりました。なお、45.15については、その後も水田版アニメでもアニメ化は全くなされていません。


2.2004年―衝撃の発表

2004.11.22、朝日新聞にて大山のぶ代を初めとするドラえもんアニメの声優陣を一新して、2005.4から新たな声優たちによる「新生」ドラえもんが始まることが発表されました。当時、主要5人の声優全員60歳をとうに超えており、キャストの高齢化が進んでいたのです。その他のいわゆる「準レギュラーキャラクター」、例えば、出木杉、先生、ドラミ、パパやママなどの声優も交代することとなりました。その後、移行の準備は順調に進み、水田わさびら5人が新たなドラえもんたちの声を担当することとなりました。2005.3.18には、A2.1787『ドラえもんに休日を?!』が放送されます。これは、35.13『ドラえもんに休日を!!』を原作としていますが、キャスト達が別れを告げるために、ストーリーの後半を大幅に改変し、オールキャラ集合の展開を銜えたのです。そして、翌週には前年の映画M2004『のび太のワンニャン時空伝』が放送され、第2次アニメは幕を閉じたのでした。


3.わさドラ・波乱のスタート

2005.4.15、春の特番放送で水田版アニメはスタートしました。第1話には、なんと大山版アニメでもパイロット版として製作された12.15『勉強べやの釣り堀』が選ばれました。また、ドラえもんとのび太が出会うエピソードは第1話として再び放送されませんでした。その後、原作を中心としたアニメエピソードの製作、そしてAB両パート新作体制という路線への変更が行われました。

しかし、長い間、それも25年もの間親しんできた大山のぶ代によるドラえもんが突然無くなってしまうという衝撃に対しては大きな反発があったのです。ただ、キャストの高齢化が進んでいた当時の現状を踏まえれば、キャストの変更、バトン渡しはやむをえない、必然的なものなのです。70歳を超えた声優たちが、毎回10代の少年少女たちの声をやるにはとても無理があるのは明らかです。しかし、一方で、「キャストを変えるのならいっそアニメの放送を全部やめてしまえ」という声もあったようです。

テレビアニメ制作側は、こうした衝撃で落ちてしまったブランド力を何とか回復させるために、さまざまなイベントや企画を設けました。2006年から2007年のリニューアルまで、サブタイトルに煽り文句がついたのも、そういった流れの中で起きたことだったのです。

2006年には、水田版アニメ初となる映画M2006『のび太の恐竜2006』が公開されました。一方で、その前に水田わさびは、大山のぶ代のドラえもんの声が染みついていた一部ファンからバッシングを受けることがあったようです。

2007年3月、映画M2007『のび太の新魔界大冒険』公開スペシャルとして、A3.162『魔法使いのび太』などがアニメオリジナルエピソードとして放送された後、続々とアニメオリジナルエピソードが放送されるようになりました。その多くがA3.193『ドラえもんが生まれ変わる日』など、20分を超える尺の拡大短編や、40分を超える中編などでした。このようなアニメオリジナルエピソードを次々と製作する動きは、2007.5のリニューアル後に活発になってくるのですが、このような拡大短編を中心としたアニメオリジナルエピソードは、2011年秋まで続くこととなります。

2008から09年までのアニメオリジナルエピソードに対しては、反わさドラ層以外からでも否定的な評価が多かったと見られ、これは当時わさドラの視聴者等からの評価が低かったことに起因していると見られ、そのようなコメントの多くはきりっと来ない、安定性が無いなどだったと思われ、当時わさドラが声優陣交代後確固たる地位をいまだ再び築けず、また方向性を見出せなかったのではと推測できます。

とは言え、この国民的アニメもだんだんそれらの地位を取り戻すようになってきます。2009年から2012年まで年々アニメオリジナルエピソードの割合が増えて行き、2011年には、水田版アニメの最初のリメイク(A3.389『ドラえもんだらけ』)が放送されます。これは、ある意味世代の一周を意味し、わさドラしか見ていないという世代がひとつ生まれたということを意味しているのです。こうして、水田わさびらによるわさドラは、声優陣一斉交代の衝撃から、国民的アニメの地位を取り戻したのです。


4.未だ絶えぬバッシング―次へつなげる

しかし、あろうことか、先ほど紹介したような、大山のぶ代ら声優陣からの交代を理由とした、水田版アニメへの批判が、アニメ放送開始から15年が経った2020年現在も絶えない状態が続いています。

その代表的な例として、以下をあげたいと思います。

(1)大山版アニメへのリスペクトが無い
(2)声が大山のがらがら声ではない
(3)原作へのリスペクトが無く、藤子不二雄の考えているものとかけ離れている

まず、(1)と(2)についてです。大山版に対するリスペクトと言っても、どのようなことがリスペクトになるかどうかは分かりませんが、恐らく様々なドラえもんを始めとする登場キャラクターの性格や設定の事だと思います。大山のぶ代のドラえもんの名演は、伝説と言っていいほどよく知られたもので、それは放送終了の2005年から15年以上経った今でも語り継がれています。だた、リスペクトと言っても過度にブランドと化した大山版を意識しては、水田版の価値が失われる可能性が高いのです。声優交代によって、大山版の多くが変革されることは2004年に最初に衝撃の発表があった時から予測されていたことですし、声優オーディションの担当者も、それらのことを踏まえて水田を選んだのでしょう。原作には、登場キャラクターの声を始めとする「音」は含まれていません。大山版アニメが始まった1979年、作者の藤子不二雄(藤本)が大山のドラえもんの声を聴いて「ドラえもんはああいう声をしてたんですね」と言ったそうです。これを根拠に、水田版を批判する人々がいるようですが、(2004年の話として)当然大山の後に、大山の声と全く同じ声の持ち主が現れるはずがなく、また不自然な物まねは、今後の「第3世代の」わさドラの価値を低下させます。私は、「大山」から「水田」への変革は正しかったのではと信じています。

(3)についてです。まず、登場キャラクターのデザインについてですが、大山版アニメよりも、水田版アニメの方が圧倒的に原作に近いことに着目しましょう。それから、野比家の間取りや、アニメオリジナルエピソードの比率など、各種設定なども、2005年の大幅リニューアルの時に、原作に近いものに変えられているのです。しかし、水田版の批判者は、これを勝手に原作からかけ離れたものにしたと誤った解釈をしているのです。たしかに、アニメ初期(2005から2011年)は多くのエピソードにアニメオリジナル要素が組み込まれ、前述のように波乱に満ちたスタートだったかも知れません。ただ、大山版アニメでは、1990年まで全く無かったアニメオリジナルエピソードが、1991年から徐々に製作されるようになり、1996年以降はほぼ全ての新作エピソードがアニメオリジナルだったことを鑑みれば、二つのアニメを比較してどちらが原作をリスぺクトしているのか、どちらが原作に近いのかと論ずるのは時間の無駄です。

そして、わさドラは2017年夏のリニューアルから、更に原作に忠実なものへと変わっていきました。サブタイトル画面は、原作の表紙絵を意識したものに変えられ、内容も原作内容を(時代に合わせた一部改変をのぞけば)確実に忠実にアニメ化し、それにバランスの取れたアニメオリジナル要素を加えたり、加えなかったりするなどの工夫が施されています。

単に第一印象だけでこれを批判するというのは、あまりにも冒進的で、またアニメを支えるスタッフやキャストに対して失礼なものです。

また、先ほど紹介したように、「ドラえもんのテレビアニメは大山版で終わるべきだった」という声についてですが、これについては強い憤りを隠しえません。なぜなら、これでは当然今の私たち水田版世代が、ドラえもんを見られなくなってしまうからです。このように大山版アニメだけをドラえもんと捉えるのは、非常に独占的で、非寛容な思考なのです。

ドラえもんの著作権はいちおう2066年まで続くことになっていて、それまでテレビ朝日は独占的にテレビアニメ『ドラえもん』を放送することが出来るという仕組みです。著作権の保護期間の変更に伴い、著作権の期限が20年延長されたことにより、次のような可能性も浮上してきました。

現在の、水田版アニメの声優陣の主要キャストの年齢を見ていきましょう。

・水田わさび(ドラえもん)=46歳
・大原めぐみ(のび太)=45歳
・かかずゆみ(しずか)=47歳
・木村昴(ジャイアン)=30歳
・関智一(スネ夫)=48歳

最年長がスネ夫役の関智一、最年少がジャイアン役の木村昴となります。ちなみに、今現在から、水田版アニメ放送開始時の彼らの年齢を逆算してみると、最年少の木村昴は14歳、つまり中学生だったということになります。それは置いといて、彼らの年齢から、今の水田版アニメがどれくらい続くかを予想してみます。大山版アニメ声優陣の最年長は大山のぶ代で、アニメ終了時71歳でした。このことから、各キャストが70歳を限度にドラえもんたちの声優を続けられると考えると、今の水田版アニメは、2040年ごろまで続き、それに伴い映画も作られるのではの予想します。そしてこの2040年ごろになると、再び2005年の時と同じような声優交代劇が起こり、少なくとも2066年まで続く「第4世代の」アニメが製作される可能性があるのです。

第4世代のアニメでどのような声優さんが、声優陣を組むかは遠い未来の話なので、全く想像がつきません。しかし、こうなると今の水田版アニメの世代などが、今のように、第4世代のアニメに対する批判やバッシングを繰り返す可能性があるのです。まさに「歴史は繰り返す」です。

ここまで述べたことは、念を押しますが、全て私の想像にすぎません。ただ、いずれ水田版アニメが終わることも確かなのです。水田版アニメを見て少年少女時代を送った世代だって、当然このようなことが遠い未来起こることは十分承知しなければならないと思います。そして、未来のドラえもんを、1つのドラえもん作品の一形態として、受け入れるというのが重要になってきます。もちろん、私も含めて批判をしたくなることはあるでしょう。しかし、我々視聴者はテレ朝職員にならない限り、製作と作品ができる過程を見守り、それを見ていくだけなのです。どのようなことが第4世代のアニメで起こるかは、本当に雲をつかむような話ですが、声が水田ではないとか、それだけでその第4世代のアニメを批判するというのは、絶対にやりたくないことです。

今後も、第3世代のアニメ、すなわち水田版アニメが、原作者の藤子・F・不二雄の意向や考え方が十分に組み込まれた面白く夢を持ったエピソードを放送することを期待しています。

(2021.1.5)


(注1)大山版が放送スタートした時に、藤子・F・不二雄の出身地である富山県で、日本テレビ版のアニメが再放送された。しかし、これに藤子は激怒し、そのため再放送は打ち切られてしまった。藤子がこのアニメシリーズの出来をよく思っていなかったのが原因と思われる。この事件のことを富山事件という。


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