2021年5月9日日曜日

【偽りの平和主義と戦う 第8回】平和運動の幻想

 第2回と第6回で挙げた、2021.2.1に発生したミャンマーでの国軍によるクーデターへの、国際社会の反応は、非常に厳しいものでした。日本、米国、そしてインドは、アウンサン・スー・チー国家顧問率いる民主政権(NLD政権)を支持する主旨の声明を出し、国際連合のアントニオ・グテーレス事務総長は、クーデターを確実に失敗させるという決意をにじませました(2/4)。実際に、国軍は治安維持という名目で、これに抗議する大勢の人々を殺害し、自由を弾圧していたのです。このように非常に異常なことがミャンマーで発生している中で、それでも反応しなかった国・組織が2つあります。

一つは中華人民共和国です。この国の憲法では、全ての国家機関は、一党独裁の「一党」にあたる中国共産党という組織が指導すると定められていて、この国の声明や、国営の報道機関などは全て中国共産党の意思だということを理解しておいてください。この国の外務省(外交部)は、ミャンマー情勢に対して「如何なる勢力も地域の平和と安定に貢献するべきだ」という趣旨の声明を出しました。このように、民主政権側にも国軍側にも支持を表明しなかったその態度には、当然中国共産党の思惑が見え隠れするところです。

中国共産党や中華人民共和国は、同じ独裁的勢力ということで、国軍との関係も深く、本当は国軍を支持したいのだということは断定して間違いないでしょう。その上で、国軍を支持する声明を出すと、今強まっている中華人民共和国への批判もさらに増長してしまう恐れがあるのです。そういったことを危惧した中国共産党などは、あえてどちらの側を支持するかを表明しなかったのです。

では、更に彼らの声明に含まれている意思を読み取っていきましょう。僕は、特に彼らがたびたび口にする「平和と安定」という文言に注目しました。彼らの考えによれば、国軍による施政が維持されて、このままミャンマーで抗議のデモが起きさえしなければ、ミャンマーは「平和で安定」した状態になり、社会がより良い方向になる、というロジックだと推測します。

でも、中国共産党が理想とする「平和と安定」は、本当に「平和で安定」しているものなんでしょうか。実際、ミャンマーでは中国共産党が理想とする、「人々が抗議のデモをせずに社会が安定するなんてことは起こりえないはずです。それは、第6回でも説明した通り、国軍による自由への弾圧に、人々がじっとしていられないからです。「平和と安定」とは、とても美しい言葉に聞こえますが、中国共産党などの世界各地の独裁者たちは、これを「誰もが独裁者に従順している状態」という意味を込めて使っているように聞こえるのです。

これは、「偽りの平和主義」です。世界中に独裁者が蔓延し、人々がそれによって自由を奪われながらも抵抗が出来ない…、そして独裁者たちが他の独裁者と結託して世界を支配する…、ゆえに争いなど起こりやしない。それが、独裁者たちの掲げる「偽りの平和主義」なのです。

今のを聞いて、「さすがに独裁者たちが支配するような『偽りの平和主義』に騙される人などいないだろう、とあなたたちは考えるかもしれません。ですが今、その「偽りの平和主義」が世界に蔓延し、「真の平和主義」がそれに取って代わられてしまう危機が迫っているのです。

確かに、世界全土を独裁者が支配するなんてことは起こりえないでしょう。ただ、問題なのは、将来的に独裁国家を中心とした国際秩序が形成されてしまうという世界がやってきてしまうのではないかということです。

現在、国際連合は、唯一の超大国である米国や、日本などの自由や民主主義をイデオロギーとする国々を中心として組織運営が回っており、今回冒頭でもミャンマー国軍によるクーデターに対しては、組織の長である事務総長が自ら非難し、自由と民主主義を尊重するという立場を貫いています。そして、世界中の独裁者などに抑圧されている人々に対しては、何らかの救済が多からず少なからずなされてきたのです。しかし、その自由と民主主義を尊重すべきこの国際機関に、中華人民共和国やロシアなどの独裁国家も参加していて、年々影響力を増しているのです。そして、こうした独裁国家は口々に、その独裁者の存在を容認しながら「平和主義」を語って、他の国々の支持を得ようとしているのです。

その、「他の国々」なのですが、こういった中華人民共和国などが語る偽りの「平和主義」に乗せられて、うっかり彼らを支持してしまう国々は、多くは経済発展が未熟な途上国です。途上国は、現在経済が非常に好調な中華人民共和国からの支援の代わりに、中華人民共和国(=中国共産党)の掲げる偽りの「平和主義」に同調してしまっているのです。こうして、自分たち、つまり独裁者たちを支持する国々で、国際連合総会や、その他の機関での多数派を得ようと企んでいるのです。

でも、その途上国にしてみれば、「先進国が消極的な自分たちの支援をしてくれるなんて、本当に中華人民共和国はいいやつだ」と思っているかもしれません。ただ、その裏には、非常に危険な恐ろしい罠が潜んでいることは、有名でしょう。

それは、「債務の罠」と呼ばれるものです。

中華人民共和国などは、途上国に「たくさんの支援金を貸すかわりに、あとで莫大な利子をつけて返してよ」、なんて約束をします。途上国の政府は、自国の発展のために、後のことはあまり考えず、そのまま約束を受け入れます。いざ、その返済期限が来たときに、当然その途上国はお金を返すことができません。すると、今度は中華人民共和国は、「返せないんだったら、あなたの国の港などのインフラを差し押さえますよ」と言って、そのやら何やらを、自分たちの物にしてしまうのです。

結局、このように中国共産党率いる中華人民共和国は、途上国を支援せず、むしろ罠に嵌めてその発展を妨げると同時に、自分たちの利益を得ようとしている姿勢がうかがえませんか?彼らは、裏では独裁者の利益ばかり考えていて、そしてそれを得るために「偽りの平和主義」を掲げていると見ることが出来ます。


しかし、「偽りの平和主義」とは、そんな単純なことではありません(「そんな単純なこと」にも騙される人々はいますが)。私たちが願うべきことと言えば、それは世界に生きる全ての人々が、人間らしく幸福な空間の中で生活できること(あくまで僕の定義)ではないでしょうか。これは、「真の平和主義」に直結することです。

そう考えられれば、独裁者が世界にいる限り、人々は人間らしい生き方を少しも出来ず、その私たちの願うべき理想は達成されないのです。独裁者の存在を、世界に認めることは、たとえ自分が自由・民主主義国家で生活していたとしても、あってはならないことだと思います。なぜなら、それは同時に第5回で紹介した、独裁者の行う自由への弾圧を認め、それに苦しむ人々を見殺しにする、言わば「独裁者に迎合する悪」なのですから。

その上で、今の国際社会は、半分独裁者の存在を認めてしまっています。国際連合は、先ほども言ったように、いちおう自由や民主主義を国際理念としていて、そこに加盟している独裁国家・中華人民共和国ですら「中国にも民主主義が存在する」と言い張るほど、「自由」や「民主主義」は世界で認められているのです。でも、本当に国際連合が自由や民主主義を守りたいのならば、本来ならば、ミャンマー国軍だけでなく、常時国民の自由を弾圧している中華人民共和国の大国なども拒絶するべきです。

ですから、今国際社会が進めている、核廃絶などの国際平和への運動は素晴らしいものですが、独裁者を世界から排除しない限り、真の平和は永久に訪れないでしょう。まるで、世界の国々は民主主義国家も独裁国家も区別なく、外交関係を結び、国際協調として国際連合の一堂に会していますが、まずは独裁者こそ世界の真の平和を妨げていて、その代わり偽りの平和主義を垂れ流している者だということを理解しなければいけません。平和へのプロセスの中で、核廃絶が大きな進歩を与えるというのは幻想にすぎません。


最後に、冒頭で言及したクーデターへの未反応の国・組織のもう一つなんですが、それは言うまでもなく、国際連合安全保障理事会です。第2回でもお伝えしたように、安保理では米英ロ中仏の5か国が、それぞれ強い影響力を持っていて、そのうち中華人民共和国(とロシア)が、偽りの平和主義のロジックを使って、安保理の決議を阻止しようとしているのです。こういう制度上の欠陥から、国際連合は「偽りの平和主義」に弱い組織となっているのです。


長くなりましたが、今回はここでまとめさせていただきます。本当に平和を目指すなら、まず何を理解しなければならないのか、納得してもらえたでしょうか。

まとめ⑧

  1. 中国大陸の、特に国営メディアの社説や報道は、全て中国共産党の宣伝に過ぎない。
  2. 中国共産党や、中華人民共和国などの独裁国家が言う「平和と安定」には、「『誰もが独裁者に従順している状態』ゆえに社会が『平和』になる」という意味が裏に込められている。これは「偽りの平和主義」であり、決して、本来あるべき「世界に生きる全ての人が争いなく人間らしい生き方をできる幸福な空間で過ごせる」という意味での真の「平和」と混同してはならない。そして、その「偽りの平和主義」には絶対に騙されてはいけない
  3. 今私たちが危惧すべきことと言えば、こういった「偽りの平和主義」を掲げる独裁国家によって、新たな国際秩序が生まれてしまうことである。その秩序が形成されてしまえば、もう永久に私たちには自由を持ちながら、人間らしく生活できる日々なんて来なくなるのかもしれない。
  4. 今の国際社会は半分独裁者の存在を認めてしまっている。本当に真の世界平和を目指すなら、それには「自由」と「民主主義」が必要で、それを否定するような本来ならば独裁者たちは世界から排除しなければならない

★次回予告★
今回は非常に長くなってしまいました。次回第9回以降では、もっと現実的に私たち人類が何をすることで、独裁者が一掃された、真の平和な世界を実現できるかについて、私の意見を述べたいと思っています。そして、それと今の米中対立との関係性についても、述べたいと考えています。


(2021.3.19)


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