2021年5月10日月曜日

【偽りの平和主義と戦う 第9回】米中対立をどう見るか

 2017年に米国大統領に就任したトランプ氏は、自国第一主義や反グローバリズムを掲げ、それによってEUなどのヨーロッパ諸国との関係が冷え込んでいきました。特に、ドイツの首相であるアンゲラ・メルケルは、彼を厳しく批判したのです。

そして、2020年。中国から広まったとされる感染症COVID-19が、米国にも到達して広まるようになると、今度はトランプ大統領(当時)は次第に中国共産党や中華人民共和国の政府などの、「隠ぺい体質」を批判するようになってきました。そうして、貿易問題から米中の対立がエスカレートしてきたのです。

そうなると、これまで米国と距離をとってきたEU諸国もうんざりです。両国の関係「悪化」に巻き込まれたくなかったからです。多くの、こういったEUなどの国々は、これを超大国同士の醜い争い、すなわち新冷戦と捉えた訳です。

冷戦、と言えば米国を始めとする資本主義陣営と、ソ連を始めとする社会主義陣営との間でイデオロギーを巡って起こった、戦争無き闘争です。ただ、厳密には「戦争無き」なんてことではなく、第1回で紹介した通り、米国はベトナム戦争で、資本主義の独裁政権を守るための戦争を仕掛けた結果、実質的な敗北と謳われるほどのひどい戦況に陥り、ソ連も、自国陣営の国の中で社会主義に反抗的な動きがあった国に侵攻するなど、利己的な行動を繰り返しました。

そんな中でも、1960年代後半には両陣営の「雪解け」の動きが見られるなど、少しは関係が「改善」してきました。

しかし、状況はまた変化します。1981年に米国大統領に就任したレーガンは、ソ連のアフガニスタン侵攻を始めとする行為に対して厳しく批判しました。これにより、「新冷戦」が幕を開きます。

レーガンは、次第にソ連の社会主義、ではなく一党独裁を始めとした「全体主義」を批判し始めるのです。そして、1983年のフロリダでの演説で、有名な言葉を残します。それが「悪の帝国」(evil empire)というものです。これは、当然ソ連に対する呼称で、自由を抑圧し、更にそのイデオロギーを対外的に押し付ける、まさに悪の塊だと説いたのです。それと同時に


「ですから、皆さんが核兵器凍結を議論するときには、自分たちが全てを超越していると楽しそうに宣言して、米ソどちらの側も同じくらい間違っているなどと高慢にも決めつけないように気をつけてください。」

(So, in your discussions of the nuclear freeze proposals, I urge you to beware the temptation of pride—the temptation of blithely declaring yourselves above it all and label both sides equally at fault…)


このようなことを言ったのです。

私は、これと同じようなことが、今の米中対立にも当てはまるのではないかと推測するのです。なぜ人々は自由、そして民主主義を大切にしなければいけないのか、これは第8回までで私がさんざん説明して来たとおりです。そして、中国共産党を始めとする独裁者のグループが、ウイグルや香港などで自由や人権を弾圧し、この広い中国という国土で専制的な権限を行使するのは、正に人間であるはずの中国の国民を人間らしく扱わないに相当すると考えます。更にそれが、巨大な軍事力や経済力を利用して、尖閣諸島を煽ったり、南シナ海のど真ん中での島の建設、そして途上国を債務の罠に掛けたりして、対外膨張を図るのは、20世紀初頭の列強の「帝国主義」と相似形ではないでしょうか。

そして、これを「米中の覇権争い」、どちらが勝っても世界の人々は得をしない、というのは非常に間違っていると思います。

確かに、米国は第1回で話した通り、ベトナムで残虐な兵器を使うなど悪行をしました。ですが、時を経て、米国でも世界的な自由を振興させようという動きがあってか、ソ連亡き後も民主主義国家の盟主として、力を自由のために捧げました(とは言え完全に彼らの判断が正しかったとは断言できない、特にイラク戦争)。中華人民共和国は、途上国の経済を発展させるヒーローのように一見見えますが、次々と途上国らを債務の罠にはめる、というような悪行を現在進行形でしていることを考えれば、とても世界の人々の幸福に貢献しているとは言えません。これらのことは、前回説明した通りです。

まとめれば、問題は、単に彼らが世界を支配するための闘争を行っていると見るのは単純すぎるということで、本来ならあなたの視点からはそこに「自由主義国家」「人権を弾圧する独裁国家」の構図が見えているべきなのです。

そして、米中に次ぐ、第3の「極」と呼ばれるEU諸国は、自由や民主主義を基調とする国の集まりなので、これらの国々が、その構図を見抜けずに、あっさり中華人民共和国側に付いてしまえば、世界の人々が自由などの人権、そして幸福を享受することがより難しくなってしまうのではないかと思います。特に、トランプ前大統領が自国第一主義を掲げたことにより、日本には接近したが逆にEU諸国との関係が薄まってしまったら、中国共産党を始めとする独裁国家陣営に対抗できなくなるのではと危機感を持っていました。現在、米国のバイデン政権は、トランプ政権の4年間で悪化したEU諸国との関係を速やかに改善し、日米を含む自由主義国家の陣営に与してもらえるようにと試みています。「世界は米国の帰還を歓迎している」と言われるので、EU諸国も快く日米を始めとする自由主義陣営に参加することが予想されます。ただ、バイデン大統領自身が親中派なのではという見方や、日本が最近対中弱腰だという懸念は常日頃唱えられていて、果たして独裁国家陣営に対抗できるかは、まだ不安が残ることです。

賢く生きるためには、米中どちらかを選ぶ、のではなく自由や民主主義のために力を捧げる国や陣営を判断するのがポイントとなってきます。「果たして中国共産党に対抗できるのはトランプかバイデンか」という論争はありますが、どちらか一方が正しかったとしても、自由や民主主義が世界の人々を幸福にし、真の平和をもたらすだろうという事実に揺るぎはありません。

ただ、米国が正しい、と言っているのではありません。あくまで揺るぎなく正しいのが、「自由」であり、民主主義はそれを利用した発明だと考えるのが適切かもしれません。このあと、仮に米国が血なまぐさい独裁国家に変貌する、なんてことがあったら、日本は米国を離れるべきです。今のところそういった兆候はほとんど見られません。日本は先日、2+2について中華人民共和国から「対米従属だ」と反発を受けましたが、米国ではなく「自由」こそ揺るぎなく正しいもので、自国がそれを信条として行動しているという自信を持ってさえいれば、そんな「批判」など実はただの「煽り」なのだと判別がつくのではないでしょうか。


こんなところで今回はまとめたいと思います。

まとめ⑨

  1. 1980年代前半「米ソ新冷戦」時代にレーガンが放った「悪の帝国」演説は、まさに今の米中対立にも当てはまるのではないか。中国共産党は、中国という国家を利用して自由を弾圧し(悪)、対外拡張を図っている(帝国)ように見える。
  2. 今の米中対立を、超大国同士の覇権争いと観察するのは、大きな誤りではないか。本来ならそこに「自由主義国家」「人権を弾圧する独裁国家」の構図が見えているべきだ。
  3. 日本などが米国と行動を共にして、それと同調するのは、決して「対米従属」だからではない。日本も米国も、「自由」こそ揺るぎなく正しい人類の基本原則だと心に留めていて、日本は米国にそれを押し付けられた訳では全くない。
次回予告
次回は、この「偽りの平和主義と戦う」の最終回にしたいと考えています。これからの自由や民主主義、そして米中対立の行方や、そして私たちがこれからどうあるべきなのかなどについて、私の意見を書き留められたら名と思っています。

(2021.3.26)



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