2021年6月15日火曜日

ペンシル・ミサイルと自動しかえしレーダー【ドラえもん傑作ファイル・第5回】

 今回は、てんコミ14巻収録『ラジコン大海戦』と並ぶ、ドラえもんにしては珍しい軍事ネタの話、『ペンシル・ミサイルと自動しかえしレーダー』の、あらすじと考察を書いていこうと思います。

●基本データ
初出:「小学四年生」1982年10月号
単行本:てんとう虫コミックス「ドラえもん プラス」第5巻第17話
全集:第12巻第44話
アニメ化:1983年『ペンシルミサイル』、2012年『しかえしミサイルが飛んできた』


1.あらすじ

いつものようにいじめられて帰って来るのび太。そしていつものように、仕返しがしたいとドラえもんにねだる。

そこで、ドラえもんは「チャンピオングローブ」なる道具を出す。これを付けて相手と喧嘩すれば、絶対に(のび太でも)勝てるという代物なのだ。しかし、あろうことかのび太はそれを断る。いつでもどこでも簡単に仕返しできるような道具こそが欲しいものなのだという。(もったいない…、別の話ではこのグローブは凄まじい威力を発揮してくれたのに…)

こんなのび太の怠けた態度に、ドラえもんも呆れが過ぎて、渋々「ペンシル・ミサイル」という小さなミサイルの形をした道具と、そのスイッチを渡す。このスイッチを持って、「目標××、発射!」と言うと、自動的に設置しておいたミサイルが、標的に正確に命中し、相手を黒焦げにするのだ…。(2012年版アニメだと、そのミサイルからは絶対に逃げられないし、撃ち落とすことも出来ないらしい)

こうしてのび太は、ジャイアンとスネ夫にさっきの仕返しを、手早くミサイルで完了して始末をつける。ところが例の通り、のび太はある計画を思いつく。早速自分の部屋に直行し、寝ているドラえもんのポケットから、ペンシル・ミサイルを有りっ丈漁り出して、自分のものにする。さすがに量が多かったので、残りは庭に置いておくことにした

のび太の計画というのは、ジャイアンとスネ夫は、彼らは歩いていれば必ず何か悪事を働く連中なので、見つけ次第すぐさまミサイルを発射して、彼らに罰を与えようというもの。案の定、2人は先ほどの出来事で機嫌が悪く、歩いていたそこを通りかかったはる夫にいちゃもんを付けて、まるで不良のように絡んで来る。(こいつら本当に小学生なのか)

2人を付けていたのび太は、すぐさまそれを見てミサイル発射!見事2人に命中し、2人は悪事を諦めて、別れて家に帰ろうとする。のび太は、より悪いことをしそうなジャイアンを引き続き追跡。途中、尾行がばれて、殴られそうになるが、自分がミサイルを持っていることをほのめかして、逆にジャイアンを硬直させる。

一方、尾行されなかったスネ夫は、それをいいことになのか、どうも今までの不審な出来事はのび太が怪しい、ということで、のび太の家を探索。そしてすぐに、先ほどののび太が庭に放置したミサイルとスイッチを発見する。スネ夫は、そこにあった全てを奪い、密かに裏山にミサイル群を設置。

そんなことも知らないのび太は、スネ夫にミサイルの不意打ちをされ、あっさりと黒焦げに。スネ夫はジャイアンと合流し、その結果のび太と、ジャイアン・スネ夫双方がミサイルを持つことに。

一方的に自分が優位に立つ構図を失ったのび太は、それを嘆いて再びドラえもんに道具をねだる。これを受けて、ドラえもんはまたまた今度は、「自動しかえしレーダー」というオプション道具を出す。このレーダーを、ミサイルにあらかじめ取り付けておくと、わざわざ「発射」と言わなくても、空にミサイルなどのような不審物が接近していると感知したら、すぐさま相手にミサイルを発射してくれるという仕組みだ。(ペンシル・ミサイルの正確性に加え、自動しかえしレーダーの確実性…。相手がスイッチを押すことは、自分にミサイルの雨が降ってくることにつながるのだ)

ドラえもんとのび太は、そのいくつかをミサイルに設置した後、ドラえもんは余った残りを庭に放置。次に何が起こるかはもうだいたい見当がつくぞ…。

ジャイアンとスネ夫は、その様子を見ていたらしく、すぐさま放置してあったレーダーを奪取。道端で対峙し、自分たちに警告するのび太とドラえもんの意表を突く形で、自分たちもレーダーを持っていることを2人に伝える。もはや互いに非難・恫喝することしかできなくなった4人…。

しかしドラえもんは、もはやどちらかがミサイルを発射すれば、どちらもただでは済まないという絶対的事実に気づく。この事態を避けるには、もう無駄な争いをやめてしまうのが得策だということになった。

こうして4人は今までのことがまるで無かったかのように和解し、楽しく空き地で野球を始めるのだった。


2.考察

初出は1982年。レーガンとブレジネフの米ソ新冷戦が始まった頃だ。ソ連はその前にアフガニスタンへ侵攻し、丁度米ソの緊張が高まり、かつてのキューバ危機のように核戦争に発展することが危ぶまれていた。

そんななか、このような世界情勢の対立構図を、ドラえもんのメジャーな対立構図であるのびドラ対ジャイスネという構図に置き換えた本作は、この点で秀逸ではないか。庭に放置してあったミサイルやレーダーを盗むというのは、スパイを送り込んで敵の技術を盗む…といったことなのだろうか。とはいえ、どちらかが軍事上優位になり得る期間は、ごくわずかで、最終的には互いが互いを滅ぼすことのできるレベルまで達することになるのだ。

そして互いに、相手に先制攻撃をすることが、実に無謀だということに気づく。この話の場合だと、最後のドラえもんの指摘のように、どちらが先に攻撃をしても、結局どっちも被害を受けるという事実ができるのだ。これにより、4人は、互いにミサイルを発射することができなくなり、ミサイルを打つ意味が無くなり、和解に至るのだ。この状態をさす概念を相互確証破壊という。作中では、彼らは楽しく野球をやっていて、非常に平和に過ごしているように見える。ただ、それが本当の平和なのかどうかは、疑問が生じるところだ。

事実、彼らの間でスイッチは川に捨てられたが、まだミサイルや自動しかえしレーダーが残っていることに着目してもらいたい。


3.結末

この話には、最後に4人が平和裏に過ごせるようになった…と見せかけて、まだ続きがあるのだ。グッドエンドで終わるというのは幻想なのだ…ミサイルがある限り。


楽しく野球を始めた4人。するとジャイアンがいつものように特大アーチを放つ。

するとあろうことか、それが近くの1つのミサイルにキャッチされ、自動しかえしレーダーによってミサイルが発射される…!発射されたミサイルに、更に敵のミサイルが反応し、自動しかえしレーダーがミサイルを発射させる…という連鎖が繰り返され、やがては全てのミサイル全25発が、空き地にいる4人を標的として向かっていくこととなる。


無邪気に遊ぶ少年たちに向かって、恐ろしいミサイルが煙を出して迫ってくるところで、物語は終わる…。


(2021.6.15)

前回:『時限バカ弾』

次回:『設計紙で秘密基地を!』

2 件のコメント:

  1. ドラえもんのこの作品も秀逸だけど、このまとめ方もつくづく秀逸だね〜
    感心しました

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    返信
    1. コメント・評価ありがとうございます。
      やはりこの話のいいところは、平和裏に終わったと読者や視聴者に思い込ませて、実はブラックな結末で終わるところで、これはいかにも藤子・F・不二雄らしいです。この短編自体は、かなりマイナーな方で、記事本文にも示しましたが、アニメ化は2回のみで、てんコミにも収録されていません。知らない人も多い作品だと思うだけに、やはり埋もれている短編を紹介するのがこのコーナーの目的の一つだと私は考えます。

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