2022年1月22日土曜日

アニオリ・オブ・ザ・イヤー

 藤子不二雄の漫画作品『ドラえもん』のアニメでは、原作にある10~20ページ程度の作品を、10~20分くらいの尺でアニメ化したものが放送される。しかし、尺の都合や、テレビ放送などとの関連から、当然ながら原作を多少アレンジして放送することもあり得るのだ。場合によっては、物語の構図を大幅に変えてアニメ化することも許される。

一方で、このような原作漫画作品のアニメ化以外にも、ドラえもんのアニメにはアニメオリジナル作品(以下「アニオリ」)が放送されることもある。なぜアニオリが放送されるのか。例えば、1979年4月から放送が開始された大山版のアニメでは、当初(~1981.9)月曜日から土曜日までの平日に一日当たり一話が放送されていた。つまり、一か月に25話の作品がアニメ化されたことになる。ただ一方、1979年のアニメドラえもんの放送開始時点で、原作ドラえもんは小学館の月刊学年誌それぞれに1話ずつ、合計6話の新作が発表される。つまり、6話の原作を作者が作るうちに25話近くのアニメ作品が作られるのだ。こうなると慢性的な原作不足が続く。

これにより、1980.1.1の正月スペシャルに『タイムマシンでお正月』が放送されたのを皮切りに、1981年10月の30分放送になるまでに、多くのアニオリや、類似した同作者の作品『ポコニャン』を元にしたアニメ化などが行われてきた。しかし、1981年10月以降は、一週間に2話、それもうち一つは再放送、というアニメ化体制が整う。これにより、アニオリ製作の必要が無くなり、放送される新作は全て原作のあるものとなった。また以後、最初のアニメ化の試みから数年が経っている場合、視聴層などの入れ替わりも考慮して、リメイク作品が製作されることもあった。

ただその後、1990年以降、原作者の体調が不安定になって来ると、再びアニオリが製作されるようになり、1999年は、放送された新作が、『ガラパ星から来た男』を原作とする『未来を守れ!のび太VSアリ軍団』を除いて、全てアニオリであった。その後、2004年までは、製作される新作のほとんどをアニオリが占めるという状態が続く。

しかし2005年に、声優陣の一斉交代(大山版→水田版)などの、アニメドラえもんの大リニューアルが行われると、再び原作中心のアニメ化という路線に回帰するようになる。2005年(4月以降)や、2006年に放送された新作は全て原作を有する作品だった。

ところが、2007年公開の映画『のび太の新魔界大冒険』に合わせて、それをテーマにしたアニオリ『魔法使いのび太』などが製作、映画公開特番で放送され、これが水田版アニメ初めてのアニオリとなると、その年の9月には、前年から始まっていた、ドラえもん誕生日にまつわる中編(40分前後)を1話放送するという「ドラえもん誕生日スペシャル」に、アニオリ『ドラえもんが生まれ変わる日』が放送される。このように、水田版アニメでもアニオリが放送され始めるのであった。

ただ、大山版アニメのように、だんだんアニオリの割合が増えていくのではなく、水田版アニメでは、原作作品もアニオリもどちらも製作放送するということで落ち着いていった。以下が、2007年以降の各年に放送された新作に占めるアニオリの割合である。

  • 2007年:14%(9/64)
  • 2008年:23%(16/69)
  • 2009年:30%(16/53)
  • 2010年:42%(22/53)
  • 2011年:44%(29/66)
  • 2012年:39%(30/77)
  • 2013年:46%31/68)
  • 2014年:39%(27/69)
  • 2015年:35%(30/85)
  • 2016年:30%(23/76)
  • 2017年:30%(21/71)
  • 2018年:29%(23/78)
  • 2019年:44%(29/66)
  • 2020年:23%(17/73)
  • 2021年:31%(27/87)

これを見ると分かるだろうが、2013年までアニオリの割合が上昇した後は、20~30%台で割合が落ち着いている。だいたいこの割合でアニオリ新作を放送するというスタイルなのだろう。

とまあここまでドラえもんのアニオリの放送形態について語っていったわけだが、そろそろ本題に入りたいと思う。

そもそもアニオリとはどんなものなのだろう。アニオリではなく、原作にある話ならば、そのまま原作者藤子・F・不二雄の意向や作品への趣向が反映されるのだが、この手のアニオリの場合、その物語を作るのは脚本家などのアニメスタッフである。当然ながら、F氏が直接作ったものではないので、作品としては、最も尊重されるべきF氏の考えるギャグや面白味とはずれている可能性がある。私が優れたアニオリと考えるのは、①原作者らしい発想の物語であり、②それに更に新たな境地が加わった物語だと思う。逆に、下手に現代っぽいギャグを入れると、作品の面白味がなくなってしまう。

そこで今回は、こうした優れたアニオリの基準を考慮しながら、年ごとに個人的に最も気に入ったわさドラのアニオリを紹介していこうと思う。なお、あくまで今回選ぶのは私の直感でであり、必ずしも「優れたアニオリ」というわけではない。また、一部の年は選考中。あらすじは省略。非常に評価は上から目線だけど勘弁はしてほしい。


★2007.9.7『ドラえもんが生まれ変わる日』

母数が少ないので、必然的にこの作品になってしまうだろう。2006年に「ドラえもん誕生日スペシャル」が始まってから2度目の中編であるが、中々よく出来た話だと思う。ただ、途中で本筋とは全く関係ないところに物語の方向性が転がっていってしまったのはどうかと思うが。


★2009.8.7『のび太の中ののび太』

6月26日放送の『のび太を愛した美少女』の反響はかなり大きいが、私としてはこっちの方が面白いと感じた。何というか、夢の中の描写が本当に夢なんだなと感じさせる一方、こういう不気味な場面も個人的には好みである。


★2011.11.11『のび太社長になる』

2007年、2009年は中編作品を選んだが、こういったギャグ面重視の話ももちろん好きである。まあこの手の話は、原作『おこのみ建国用品いろいろ』と似ていると感じるが、のび太が大きな組織を率いるリーダー性を全く持ち合わせていないことを改めて感じさせている。感想としては、最後のび太は従業員に降格してしまうけど、自発的に退職すればいいのではないか、とも思ってしまう。


★2012.12.7『恐怖のジャイアンピザ』

最高シーンは、ジャイアンが骨川邸の玄関をこじ開けて、自身のジャイアンピザ「山男風」(枯れ葉、セミの抜け殻など)と「海男風」(ザリガニなど)を合体させて、スネ夫の口に無理やり突っ込んだことにより、スネ夫が絶叫するところか。ジャイアンがリサイタルチケットを家々に配る恐怖と、料理の恐怖との2つの恐怖が同時に来るという感じだろう。そういうところもいい。


★2013.5.17『脱出!恐怖の骨川ハウス』

次々と脱出するために出題される問題が、高校難易度高レベルの数学や、「スネ夫君がチャンスがあるなら思いきり殴ってやりたい相手は?」など、様々な方面があり、バラエティー溢れる様がいい。5人が団結しながら最後は骨川家を脱出できたものの、その過程で発生したいざこざで喧嘩が始まるという支離滅裂な始末。


★2014.9.5『地底100マイルちょっとの大作戦』

この手の誕生日スペシャルには明確な悪役がいてもいいのだが、この話は2勢力の互いが互いを悪の手先だと勝手に思い込むがゆえに、物語の中の問題がなかなか解決しないといったストーリーである。そこに私が気に入る印象がある。最後、登場したゲストキャラも含めてドラえもんの誕生日を祝ってくれるエンディングにはほっとした。


★2015.11.27『のび泥棒をタイホせよ!』

ドラえもんの持つ22世紀のひみつ道具は、我々現代人が遊ぶ遊びをより豪華にしてくれる。こういったより現実性を持った遊びは「リアル××」と呼ばれ、この場合は「リアル警泥」であるが、本当にこういう系の話は私は気に入る傾向にある。また、成績は若干格上であるはずの出木杉を、しずかが完璧に欺くところも良い。


★2016.8.12『ダジャレでやっつけろ!』

この話は約10分間の尺の間に、31個のダジャレが登場する。単にダジャレが馬鹿らしくて面白いのではなく、それが現実になった場合どんなことが起こるのか、というのが面白いのである。その30個余りの全てが私たちを笑わせてくれる。


★2017.9.1『謎のピラミッド!?エジプト大冒険』

初めて観た時はあまりいい印象が無かった。というのも、私が期待していたのは、「ドラえもん誕生日スペシャル」としての、ドラえもんとその周辺人物にまつわる友情譚であって、それとあまり関係性がない話は正直非常に酷評だった。ただ、それ抜きで考えれば、映画並みの出来であり、時代考証や隅々にまでわたるアニメ描写もしっかりしている。大長編を彷彿させるような大作である。


★2018.2.16『ジャイアンVSメカジャイアン』

あらゆる場面に、ジャイアンの「らしさ」が現れていた。ジャイアン当人を倒すためのメカジャイアンをジャイアンに倒させるという、立場の逆転があるストーリー展開が魅力的だ。メカジャイアンは、ジャイアンらしさを隅々まで体現している。また、わさドラは彼女を多用する傾向にあるのだが、下手にジャイアンの母親を登場させなかったのも評価したい。


★2019.5.17『人間味調味料』

スネ夫の声優である関智一氏の企画による作品である。掛けられた人から醸し出される意気や雰囲気を自在に変えられる調味料が登場する話だが、その変えられた人間味を表現するのは漫画ではなくアニメでしか出来ないことだ。だからこそ、本当の意味でドラえもんを「アニメ化」した作品である、それゆえアニオリ・オブ・ザ・イヤーに選ばせてもらった。


★2020.6.27『つくれーるマイレール』

この手の発想は、2014.5.16『のび太鉄道』にもあるが、今回は困難を乗り越えて遂に学校へ到達するという流れがはっきりしていて、ストーリー展開も悪くはなかった。最後の時間ギリギリに教室にみんなで入るシーンは無駄に勇猛なBGMも流れていて良かったし、話の締め方も自然だった。


★2021.4.10『ジジ島の怪魚ハンター』

この話は細かな演出の仕方が最高だった。具体的な点についてはまた別の記事で書こうと思うが、例えばドラえもんの四次元ポケットが無いことを彼がダイムベルトを出そうとするまで誰も気づかないようにするやり方や、その他BGMなどの配置もさすがというところだった。このように、非常に見所の多い作品であった。


もしかしたら、改めて視聴して「あっちの方がいいじゃん」などと言って心移りして、いつの間にかここに掲載されている作品が変わっている可能性もある。

なお、2022年以降の「アニオリ・オブ・ザ・イヤー」は、その年の年末のあいさつ記事で発表・更新する予定である。今年はどんな素晴らしいアニオリが製作されるのだろうか、非常に楽しみだ。

(2022.1.22)


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