2022年11月12日土曜日

Twitterどうなる?【未来ノートコラムB・第13回】

先月28日に大手電気自動車会社テスラのテクノキングであるイーロン・マスクCEOが、Twitter社の買収を完了し、企業およびサービス運営の改革に乗り出した。Twitter社は元来収入性の低い企業であり、2020年度から2021年度の決算は2年連続で赤字を計上していた。そのため、マスクは認証バッジの有料化や社員の半数(約3700人)解雇に取り組み、資金繰りの改善を試みた。

しかし、マスクがTwitterを買収して以降、その企業・サービス改革をめぐる経営混乱が続いている。11日には、マスクは社員に対してTwitter社の「倒産」があり得ることを警告し、社員に現状の打破への協力を求めた。買収が成立して約2週間だが、なぜこれほどまでに経営に関して不穏な空気が漂っているのか。


認証バッジを巡る混乱

マスクは、2日に米国中間選挙後に「青い認証バッジ」を有料化することを発表。具体的には、Twitterの中の課金サービス「Twitter Blue」に加入しているかどうかを示すバッジに変更するというものだった。つまり、「青の認証バッジ」はこれからはそのユーザーが「公式」であることを示すものでは完全になくなるというのだ。

マスクのこのような有料化の提案の意図は、Twitter社の収入を増やすことにあった。課金ユーザーを増やすことで、現在、収入の9割を依存している広告収入への依存を脱却し、企業経営を立て直そうという意図があった。8日にはTwitterサービス全体の有料化を検討しているという報道もあった。

だが、このような今まで供用されてきた認証バッジの有料化、すなわちその機能の大幅な転換は、公式を示すバッジの廃止を意味し、個々のTwitterアカウントの信用性を低下させるため、SNSモラル面に重大な支障を生じさせてしまった。そのような批判を受け、Twitter社は8日、「政府のアカウント、営利企業、ビジネスパートナー、主要なマスコミ、出版社、一部の著名人」に対しては、新たに「灰色の公式ラベル」を付与することを発表した。だが10日にこの方針の撤回が表明された。ところが11日に一転、青いバッジを付与された偽アカウントの増加を受け、青いバッジの付与受付が停止され、逆に灰色のラベルの付与を一部アカウントで復活させた。

このように、Twitterサービスの制度をめぐっては、混乱がここ数日間続いている。マスクは10日、「Twitterはこれから数カ月間バカなことをたくさんする。うまくいっているものは残し、そうでないものは変えていく。」とTwitter上で明らかにした。これは経営改革に関して試行錯誤を続けていくことを自ら表明したかたちであり、これからも経営やサービスの変更に関わる混乱が続くと予想される。


広告主の撤退と背景にあるマスクの思想

マスクはTwitter社の買収を完了して以来、広告収入に頼らない財政による赤字脱却を目指していた。ただ現状、Twitter社の収入は9割を広告に依存しており、マスクは広告主の不安を抑えようという行動もしている。買収成立直後の先月27日、マスクは広告主向けのメッセージで「Twitterはブランドを強化し、企業を成長させる、世界で最も尊敬される広告プラットフォームになることを目指している」との意志を示した。

だが、11月に入って以降、著名人のTwitter離れや、主要広告主の撤退の報道が相次いでいる。3日には、ゼネラルミルズやファイザー、アウディ、フォルクスワーゲン、モンデリーズ・インターナショナル等の企業がTwitterへの広告の出稿を停止したと報じられた。その背景には、マスクが一度に大量の社員を解雇したのに加え、彼の倫理観を起因とするTwitter投稿監視体制の緩慢化への懸念が増大しているというものがあるとされている。

マスクは、買収前の今年5月に、昨年Twitterアカウントを凍結されたトランプ前大統領のTwitter復帰措置を買収後講じる可能性を示唆したり、先月30日には、米国下院ペロシ議長の自宅が襲撃された事件に関して、ヒラリー・クリントンの投稿に反応して、「わずかばかりだが、この話には、目に見える以上のことが隠されているかもしれない」というメッセージを添えて陰謀論サイトの記事のリンクを返信したり、あるいは米国中間選挙の前に共和党への投票を呼び掛けたりするなど、最近になって親共和党的言動を繰り返してきた。

これが既存のリベラル層の反発・不安を招き、今回のような「Twitter離れ現象」を起こしているとみられる。特に広告収入の多元化が達成されないまま、もしこのような主要広告主の撤退が継続すれば、もともと悪かったTwitter社の資金繰りは更に悪化し、11日にマスクが言及した「倒産のリスク」も増大化する可能性が高まってしまう。

マスクは、上述のように、近年のリベラルメディアが、親トランプ派や少数派への差別的言論に対してプラットフォームを凍結するなどといった処置を取っていることを、「言論統制」として批判している。だが私が彼のこれまでの言動を見る限り、彼自身が、親トランプ的な政治見解を持っていたり、あるいはレイシズム的な考えを持っていたりするという可能性はあまり考えられずむしろ彼はあらゆる言論について、その是非を議論する前に、その発言の自由が守られるべきだと考えているように見える。彼は「自由絶対主義者」を自称していて、2020年の米国大統領選挙ではバイデンに投票したように、本来ならリベラル的立ち位置にいるはずの人間だ。だからそのリベラル的な考えに基づいて、リベラル派が守旧派の言論を「抑圧している」現状に否定的な考えを持っている。彼がヘイトスピーチなどを擁護するような言動を見せるのは、それに賛同しているからではなく、少なくとも論壇に上がる最低限の価値はあると彼は受け止めているからである。また、彼が上述のような陰謀論メディアを紹介したのは、そこにある情報を広めようと画策しているのではなく、ニュースに対する「他の視点」を提供しようという意図を持っていたからだと考えられる。

このように私が彼の行動を観察する限りでは、彼は保守的というよりはリベラル的と表現した方が良い。トランプのTwitter復帰の可能性を示唆したのも、トランプを支援したいからではないと思う。彼のリベラル的価値観は、包括的な言論の自由を主張しており、それゆえに本来なら対立するはずの相手に対してまでも、その言動を擁護していくのだ。

ここまで聞くと、リバタリアン的なリベラル派の考えだけでなく、親トランプ派のような保守的な考えにも理解を示しているマスクは、米国の保革分断を解消するための糸口を見つけ出しうる人間なのではないかというようにも感じられる。しかし実際には、上記のような、彼の「言論の自由」などに対する認識は、非常に浅はかなものである

まず彼は、大衆が言論を暴走化させるリスク、そしてそれを規制することの重要性をよく認識していないのではと感じる。それこそまさに昨年1月の連邦議会議事堂襲撃事件が証明したように、一部の大衆の間で情報が氾濫し、重大事件を起こしてしまうことが現実にはあり得るのだ。残念ながら、現代のSNSは、放置状態であれば誤情報を集積して実しやかな情報へと作り替える機能を持っており、それを制御するのが運営側の役割だ。今回彼はこれを軽視してしまったために、Twitterサービスは混乱に陥っているというわけだ。民主国家においても、言論の自由が一部制限されなければいけない事情は常に存在する。

それに、よりよい言論空間をつくるためには、単純に左派と右派のバランスを保てばよいということではない。米国に分断を引き起こしたのは、近しい見解を持つユーザーだけを一か所に集積させて各々の言論を孤立させたTwitterなどSNSの機能である。ヘイトスピーカーを含む、一部の保守派を連れ戻したところで、また言論の分断が進むだけだ。私からみれば、彼は民主主義社会におけるSNSの性質と役割を理解していないように思われる。

であるからして、彼の理想と現実とのギャップが、現在Twitterをめぐって多くの混乱を引き起こしているわけだ。


マスクの手腕はいかに

買収以後、Twitterの経営を混乱に陥れてしまったマスクには、多くの批判の声が上がっている。とは言え、もともと大赤字を2年連続で計上していた企業を引き受けてのこれなのだから、気の毒だと思うべき余地は大いにある。私としては、前述のような彼の倫理観からして、マスクが今後すぐに状況を打破できるかについては、あまり期待していない。しかし、起業家・経営家としての実績は十分であり、その手腕やスキルも多くの人が認めているものがあるからこそ、今の地位があるように思えるのは当然のことだ。

彼が11日に可能性を言及した「Twitter倒産」―それが万が一現実となれば、世界の2億人を超えるユーザーに大きな影響を与えてしまう。何としてでもその最悪の事態は避けてもらいつつ、混乱を早く脱して欲しいと願っている。広告主の撤退は喫緊の課題かつ重大な障壁だが、これを受けてTwitterの課金サービス等を充実させて持続可能な経営体制に持って行ければ、改革は大成功と言われるだろう。まだ買収から2週間しか経っておらず、マスクもまだ試行段階だとして余裕を持っているようにも見える。複数の企業を長年にわたって引き連れて来られたのは、柔軟にモノに対する価値観を広げられるパースペクティブを持っていたからであり、今後彼がTwitterを安定した軌道に乗せられるようにするためのある種の方向性の転換が求められている。

(2022.11.12)


トランプのTwitterアカウントが復活(2022.11.26追記)

Twitter社は20日、昨年1月の連邦議会襲撃事件に関連して永久凍結されていた、トランプ前大統領のアカウントを復活させた。これは事前にマスクが自身のTwitter上での「投票」で、彼のアカウントの復活の賛否を尋ねたアンケートの結果に基づいたもので、投票総数1500万件の内51.8%が「Yes」と答えたため、復活に至ったという措置であった。

これに関して、正直な感想を述べさせてもらうと、愚の骨頂である。別に復活したのがトランプだからそう言っているのではない。一般に、企業としての方向性を大きく左右し得るものに関して、簡易的な投票システムによる、しかも民衆による多数決でこれを決定するというのは、下記の理由より、非常に不合理なものと言えるからである。

アカウントの凍結を継続させるか、解除させるかの基準は、そのアカウントが社の利用規約やポリシーに沿っているか、倫理基準を満たしているかどうかで判断されるべきである。その判断材料が保証する「正しさ」と、民衆が示す賛否とには、何ら関係性は無い。「より多数の支持を得た事柄が正しい」とは、現代の民主主義社会に巣食う病魔的幻想だ。多数派の言うことが正しいとは限らない。これは、企業の方向性の決定に限らず、全ての組織としての意思決定のプロセスに対して言えることだ。

もし民衆が愚かであれば、多数決による決定には何の妥当性も保証されない。そして現に今回の「投票」に参加したのは、世界に散在する烏合の衆たるTwitterユーザーたちであった。当然ながら、彼らが「Yes」または「No」の投票ボタンを押す過程で、なぜ「Yes」なのかあるいは「No」なのかの論理的な根拠を示すことは無い。

なのにもかかわらず、マスクは、この論理性・妥当性の保証が皆無の「民の声」を「神の声」、すなわち「神が定めた正しい道」というのだから、笑止千万である。マスクの一連の発言・行動は、現代ネット民主主義社会の病理を驚くほど精密に体現していると言わざるを得ない。

改めて申し上げるが、民主主義社会において、「多数決」とは「逃げ」である。本来の理想的な民主主義社会では、集団の方向性をより正しいところへ持っていくための論理的かつ緻密な議論が行われるべきであるはずだ。しかしながら、人々は焦り、より早く結論を導き出すために、歴史の中で、多数決という名の論理性を省いた物事の決定方法を、民主主義のシステムに導入してしまった。そしてそれが普及し現代を生きる人々の意識の中にも、「多数決=正しい」という解釈が生じてしまっているわけだが、元来は、民主主義と多数決は相いれない概念なのだということを人々は理解しなければならないと私は思う。

私のこの主張について詳しいことを知りたければ、今年2月に私が書いた記事「多数決文化との決別」も参照してほしい。

幸か不幸か、トランプは復活された自身のアカウントを以前のように使用するには興味は無いらしい。しかし、マスクが過去に凍結させられたのを復活させた他のアカウントも、ユーザーによっては積極的に利用を再開しようとしている者もいるはずだ。トランプ自身も既に2024年の大統領選挙への立候補を表明しており、選挙情勢によってトランプに不利になることがあれば、切り札としてこれを用いてくることもあるかもしれない。


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