2021年7月10日土曜日

【新提唱】アニメ版ドラえもん原作忠実度

 突然ですが、藤子・F・不二雄の国民的漫画作品『ドラえもん』作品群について、新たに提唱したい概念を発表したいと思います。

それはずばり「原作忠実度」。

ドラえもんの現在放送されているテレビ朝日によるテレビアニメシリーズでは、年間4分の3が、藤子先生が描かれた原作作品をアニメ化、そして残りの4分の1は、テレビ朝日製作陣が新たにプロットを練って製作したアニメオリジナルエピソードとなっています。そのうち、約4分の3を占める原作を基にした短編についてなのですが、先日の記事でも示した通り、ドラえもんの原作話数は大長編も含めると1339話となります。一方で、今まで大山版から水田版(2020年末時点)まで2930話が製作されており、これを基に考えると、いくつかの原作は大山版から水田版にわたって1回はリメイクされていると考えられます。

実際に例を見てみましょう。

例えば、てんコミ28巻『大ピンチ!スネ夫の答案』は、1983年(大山版)、2007年、2018年(水田版)と3回アニメ化されています。また4巻『おばあちゃんのおもいで』は1973年(日テレ版)、1979年、1986年(大山版)、2000年(大山版映画)、2006年、2011年(水田版)と最多6回にわたってアニメ化されています。

一方で、大全集18巻『ターザンパンツで大活躍!?』などの問題作とされる作品は、一度もアニメ化されていません。

そして、今回は、何回もアニメ化されている原作と、そのアニメ化してできた作品というのについて、考えてみます。

ひとくちにアニメ化、と言っても、いつの時のアニメ化でも、同じ原作が同じようにアニメ化されるとは限りません。例えば、てんコミ19巻『海に入らず海底を散歩する方法』は、1980年の大山版の時のアニメ化と、2009年の水田版の時のアニメ化とでも、2005年の大リニューアルの前と後では全然作風が異なりますし、大山版の方がお気に入りの人もいれば、水田版の方がお気に入りの人もいるでしょう。

そこで問題になって来るのが、どちらのアニメ化の方が原作に忠実かという論争です。

普通のドラえもんファンにとっては、藤子先生が描かれた原作漫画作品は、全て正典であり、聖典でもまたあります。ですから、2つのアニメ化を比較した時に、大山版を支持する者も、水田版を支持する者も、自分たち側の方が原作に忠実だ、官軍だと言い張りたいことがあります。

そんな論争に関係なくとも、たとえば『海に入らず海底を散歩する方法』の話であれば、同じ水田版のアニメ化でも、2010年版と2019年版、どちらが原作に忠実だったのだろうか、というのを考えたくなることがあるのではないでしょうか。


そこで、今回僕が提唱したものが、原作忠実度です。


原作忠実度は、とある原作会のアニメに対して、そのアニメが原作にどれくらい近いかを表す点数で、100点満点なのです。そして、それは数値を用いて計算されます。計算式は、以下の通りです。

{(原作使用数+題名忠実度)/(原作コマ数*6+10)}*70+(原作使用尺/アニメ尺)*30[点]

恐らくよく分からないと思う人が多いと思うので、順番に解説していきたいと思います。


1.原作忠実度の計算方法

原作再現度

計算式の赤い部分が、「原作再現度」と呼ばれる値になります。これは、原作忠実度全体の7割を占めています。どのような値を表すかというと、簡単に言えば、「原作に描かれている要素をアニメ化に反映しているか」ということです。

まず、「原作コマ数」を測定します。これ自体は簡単ですが、注意しなければならないのは、「コマ数」には実際のコマ数に、表紙絵を加えたものになることです。これだけは計算する際に忘れるべきではありません。そして、その「原作コマ数」に6をかけます。これはどういうことかというと、その6のうち、3は「登場人物」、2は「場面」、1は「セリフなどの言動」というコマ内に存在する「要素」の点数になります。そして、その原作再現度の計算式の分子には、そのアニメ化でそれぞれの「要素」が再現されていれば、その点数を足し、再現されていなければ、その点数を足しません。こうして、この「要素」の点数を足したり足さなかったりしてできた合計点数が、「原作使用数」になります。

分かりにくいので、具体例を出します。例えば原作と、そのアニメ化がこうだったとします。(計算式中の「題名忠実度」と「+10」は無視します、実際にこのような話の原作は存在しません


原作1コマ目:のび太がしずかの家へ向かいながら、その道で「急がなくちゃ」という。その様子を陰からジャイアンとスネ夫が見ている。

原作2コマ目:のび太がしずかの家について、呼び鈴を「ピンポーン」と鳴らす。

原作3コマ目:のび太は「なんだ、いないのか。」と言ってしずかの家の敷地から出る。

原作4コマ目:ジャイアンとスネ夫がのび太に「やいこのやろう。さっきはよくもあんなことしてくれたな。」と言いながら絡んで来る。

アニメ化:のび太は源家に「どうしよう。急がなくちゃ」と言いながら走って向かう。その間に、その後ろ側で彼を睨みながら見つめるジャイアンとスネ夫がいる。場面が切り替わって、しずかの家についたのび太が呼び鈴を鳴らす。すると、しずかの母が出て来て、「ごめんなさい。しずかは今出かけてるのよ。」と言う。のび太は「そうですか。」と応答して、しずかの家を去り、「なんだいないのか。しずかちゃんどこにいっちゃったんだろう。」と独り言を言う。すると、先ほどの道角からジャイアンとスネ夫が現れて、「やい、のび太。さっきはよくもあんなことしてくれたな!」と絡んで来る。


まず、この場面だけでの「原作コマ数」は、4であり、分母は4*6=24となります。

次に、分子の「原作使用数」を計算します。原作1コマ目と、アニメの描写を見比べてみると、「登場人物」は、原作とアニメ共通→3点プラス、「場面」も原作とアニメ共通→2点プラス、「セリフなどの言動」は、原作とアニメで若干違うので、1点プラスはせず、結局、1コマ目に関しては、合計5点プラスとなります。

同様に、2コマ目は6点プラス、3コマ目は2点プラス、そして4コマ目は6点プラスとなり、この場面だけで、原作使用数は合計19点となります。これを、24で割った0.79が原作再現度になります。

先ほどの例では無視した、「原作再現度」に含まれる「題名忠実度」に関する計算なのですが、正直これは非常に複雑で、ここで説明すると日が暮れてしまうので、省きたいとは思いますが、要するに、そのアニメ化したときの題名が、原題とどれくらい一致しているのかを示す値になります。

原作使用度

上に示した計算式中の、青字で示している部分が、「原作使用度」という値になります。これは先ほどの原作再現度の計算よりもはるかに単純で、要するに原作回の中でのアニメオリジナルカットがどれくらい含まれていないを示すものになります。

例えば、11分の尺のアニメで、アニメオリジナルカットが3分30秒を占めているとしたら、計算式は(660-210)/660=0.68となります。これが、原作使用度です。ちなみに、アニメオリジナルカットではない部分の事を、「原作使用尺」と言います。

最終的な値の算出

これらの原作再現度と原作使用度の値を出したうえで、最終的に値を算出します。出し方は非常に簡単です。原作再現度と原作使用度のそれぞれで出した「0.XX」などという値を、原作再現度なら70を掛け、原作使用度なら30を掛けて、あとで足せばいいのです。例えば、原作再現度が0.81で、原作使用度が0.63だとしたら、0.81*70+0.63*30=75.6[点]というのが最終的な原作忠実度になるのです。

ご理解いただけたでしょうか?

なお、最終的に小数点以下を四捨五入して、値を0~100の整数にします。この際に気を付けなければならないのは、四捨五入は最後に行うということです。途中で出た原作再現度や使用度の値を、途中で四捨五入すると、正確な計算が出来なくなってしまうからです。


2.原作忠実度の測定例

こちらの方で、上に示した通りの原作忠実度を使って、実際にとある原作回のいくつかの原作忠実度を測定してみたところ、

  • わさドラ第460話『ジャイアンシチュー』(2012.2.20放送)→75点
  • わさドラ第703話『今年もあの日がやってきた!』(2015.6.12放送)→81点
  • わさドラ第872話『森は生きている』(2017.8.25放送)→81点

というようになっています。


3.原作忠実度のデメリット

自分で紹介しておきながら、この原作忠実度の計算に関するデメリットもここで紹介したいと思います。

原作忠実度の最大のデメリットというのは、ずばり計算する人によって値が定まらないということです。

どういうことかというと、例えば「どの場面をアニメオリジナルカットとみなすか」とか「アニメにおけるどのセリフや言動を、原作と違う、改変されているとみなすか」などで、測定する個人や、時によって、個人差が出ていき、最終的にそれぞれで値がばらばらになってしまうということです。

ですから、自分が上に示した計算方法に乗っ取って「『××××』という話の原作忠実度は83点だった!」と計算結果を発表しても、「いやいや、おれが計算したら72点だったぞ」とか、「そんな低くないよ。少なくとも90点は超えてるぞ」なんて言う人が現れて来ることが予想されるのです。

これが、原作忠実度のシステムとしての欠陥であり、最大のデメリットだと考えます。


4.原作忠実度の応用

とは言え、もしちゃんとした基準をこれから作って、原作忠実度を正確に計算できるようにしたら、そのようなバラつきを解消させられるかもしれません。そこで、この章では、原作忠実度を計算したら、はたして何の役に立つのだろうかというのを、紹介していきたいと思います。

原作からのアレンジ度合いで、アニメ作品それぞれを分類する

原作忠実度を使って、アニメ化した作品を、この作品は「原作に忠実だ」とか、「大幅にアレンジされている」というのを分類してみましょう。

恐らく、「原作に忠実」と「大幅にアレンジ」の境界は、原作忠実度で70点前後くらいになりそうです。つまり、例えば、『××』という原作のアニメ化『A』という話の原作忠実度が、65点だったら、その『A』というアニメ作品は、70点未満なので、「大幅にアレンジ」として認定される、ということです。

大山版と水田版、どちらが原作に忠実なのか、決着をつける

仮に、大山版のアニメエピソードのすべてと、水田版のアニメエピソードのすべてに、原作忠実度を採点した場合、最終的に、それらの平均の値が出ます。この、大山版アニメの原作忠実度平均と、水田版アニメの原作忠実度平均を比べて、どちらか値が大きい方が、より原作に忠実ということになるのです。なお、アニメオリジナルエピソードは原作忠実度0点として数えます。

ただ、原作忠実度には、「作画」とか「音楽」とかいう基準に対しては、考慮されないシステムなので、やはり正確に値を出すのには適していないようです。

いつのアニメ化が、最も原作に忠実だったかを検証する

冒頭に挙げたように、ドラえもんの原作漫画作品の中には、幾度にわたってもアニメ化されている短編があります。これをアニメ化した作品それぞれに、原作忠実度を採点した結果、どのアニメ作品が、最も値が高くなるか、というのが分かると、どのアニメ作品が、最も原作に忠実だったかというのが分かるのです。


このほかにも、この「原作忠実度」を応用する目的はたくさんあると考えています。


5.おわりに

ただ、やはりドラえもんの作品の良し悪しを判断する要素は、「原作にいかに忠実か」という基準だけではないと思うんですよね。結局、単純に読んだり観たりして、面白いか、心に障る者があるか、というのが主に関わってくるものだと考えています。なぜ、『ドラえもん』が作品全体としてこんなに面白いのかと言えば、僕は「色々な話に多様性があるから」だと考えます。『ドラえもん』の話では、話によって、登場人物の対立対峙構図が大幅に異なってきますし、一口に「ドラえもんはのび太の保護者で、ジャイアンとスネ夫は悪役だ」とは必ずしも言い切れない、そういうところが面白いのだと思います。

今後も、あの傑作原作回はアニメ化されるだろうし、素晴らしいアニメオリジナルエピソードも放送されるし、映画だって面白くなると思います。今後もアニメ『ドラえもん』の動向に注目です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


(2021.7.10)


2 件のコメント:

  1. 返信
    1. コメントありがとうございます。
      『ドラえもん』は、アニメを見ていても、原作とどこかしらで結びついてくる点が多いようです。また、メジャーな作品だと約8年くらいの周期でリメイクされています。

      削除

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