2021年7月10日土曜日

仲間を増やそう【未来ノートコラムB・第2回】

 こんにちは。久しぶりに、1日2回以上、「未来ノート」を更新することが出来ました。ここでは、外交問題について、ひとつ扱ってみようと思います。

現在、米国のバイデン政権と、中国の習政権は厳しく対立しています。それは、去年までのトランプ政権からの時の同様、今も続いていることです。そもそもなぜこのような対立が発生したかと言えば、

  • 中国の政治・経済・軍事の広範囲にわたる潜在的な台頭可能性
  • 中国政府による、香港での言論弾圧に加えて、ウイグルでの人権問題、同化政策等
  • 米中貿易摩擦
  • 台湾問題
  • COVID-19を巡る情報戦
などなどが発端でした。

これらは、トランプの1期目の任期の終わりが近づいていた、2020年に更にエスカレートし、トランプ政権は、中国政府や中国共産党に対して圧力を強めていました。しかし一方の米国は、人種差別に対する抗議運動が激化し、その他感染の拡大による経済の悪化など様々な要因が重なって、結果現職大統領の候補であったトランプは落選し、新たにバイデンが大統領選挙で当選し、その後就任しました。

当初、だいたい2020年夏ごろまでは、バイデンはこれまでの外交履歴を考えると、親中派であり、中国に対して弱腰なのではと言われて、特に共和党陣営から批判されていました。しかしながら、8月ごろだったでしょうか、バイデンが指名を獲得した民主党も、中国の日ごろの行いに対して、強硬姿勢を貫くことを約束しました。

さて、トランプの掲げる対中外交も、バイデンの掲げる対中外交も、対中強硬という点では一致していますが、でも中身は全然違うというのはお分かりですね。トランプとバイデンの外交スタンスの違いは、様々な点が指摘されていますが、ここでは一部について強調したいと思います。

その一つが、「同盟関係」です。

トランプは、「米国第一」のため、米国の利益を追求しましたが、そのための日本やEU諸国のような同盟国の利益は考えませんでした。これはどういうことかというと、例えば同盟国に駐留している駐留費の負担の増額を求めたり、さもなくば撤退を勧告するなど、これまでの同盟国との同盟関係が不平等だったという考えのもと、とった外交政策でした。これは多くのかつて米国の同盟国だった国からウザがられ、特にドイツのアンゲラ・メルケル首相は、彼の米国第一的な態度を厳しく批判しました。

しかし、バイデンが大統領に就任した後は、ギクシャクしていた欧米関係も、改善の道へと向かっており、またEUは中国に対する警戒感を強めているようです。

残念ながら、トランプの米国第一政策は、孤立的なもので、中国と対峙する同盟国にとってみれば、この上ないダメージそのものでした。

このように、本来は自由民主主義という共通の価値観を持った2勢力同士が、互いに利害が対立して協調できないのは、中国による漁夫の利を助長するようなものです。これから、恐らく各種人権問題で、中国政府に対する締め付けを、日本や欧米諸国が強めていくと思いますが、そのうえで、日米やほかの国との同盟関係というのは限りなく重要になってくるもので、トランプは確かに対中強硬だったけれど、同盟国軽視のその姿勢は歓迎できるものではありませんでした。

そして、トランプによる米国が孤立するような外交政策は、中国による世界覇権の増大のリスクを更に加速させました。例えば、米国が各種国際団体から離脱すると、そのかつて米国がいたポストに中国が就き、結果中国の政治的発言力が増大してしまう、といったようなことです。

そして、更に別の面で、今問題があります。

次の記事をご覧ください。

西岡省二:決して忘れてはならない「中国の香港弾圧を支持した53カ国」の名前と場所

西岡氏によれば、2020年6月に開かれた、国連人権理事会で、香港における中国政府の国家安全維持法制の導入の可否をめぐって議論がなされたようですが、その国安を支持する国が、53か国もあり、支持しなかった民主主義諸国27か国の倍以上あるようです。

当然ながら、なぜこんなにも、国安を支持する国家が多いかというと、それはそれを支持した国家の多くが、中国の提唱する一帯一路などに参加する開発途上国だからです。これらの開発途上国は、一帯一路の融資を受けて、現在急速な発展と都市化、インフラ整備を加速させています。この融資を受ける代わりに、中国に対する国際社会の圧力を交わすための、国家としての意思表明(=中国側の意見を支持する)を行っているのです。

他にも、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)という、途上国支援機構も、加盟国は60か国あまりなのに対し、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国はすでに100か国を超えており、こうした「途上国支援」の面で日欧米が、中国に対して遅れを取っているのは確かです。

もちろん、中国の一帯一路政策が与える途上国への恩恵というのは、目先の利益にすぎず、たとえば莫大な債務を押し付けて、返済できない分を、港などの接収で賄わせて、それを軍事拠点化しようとするなど、罠(債務の罠など)はたくさん存在します。中国が現在途上国に行っている支援は、本当の意味での支援ではないのです。

日本は、日本の主導によって、その上を行くような、途上国のニーズに合わせた支援が必要になって来ます。そのための、日本の国際社会における役割というのが問われているのではないでしょうか。また、途上国に対しては、その人権状況も改善させて、よりよい民主国家治安国家、そして福祉国家へと、国民の意識から自然に変革させていく必要性があります。そうすれば、現在少数派になっていると言われている民主国家の仲間を、更に増やすことが出来ます。このような外交施策は、決して「押しつけ」でも「交換条件」でもありません。そして、我々はこうした途上国のための金を出し惜しむべきではありません。ただ、民主化をそっちのけにして、開発だけをどんどんハイスピードで推進していくと、今の中国のような厄介ものになってしまいます。その点には注意が必要なようです。


今回はここでまとめたいと思います。

まとめ

  1. トランプは、自国第一主義を掲げて米国大統領として外交施策を執ったので、その分米国の旧来の同盟国との距離が開くようになってしまった。その分、中国の国際社会における発言力が上がってしまった。
  2. 現在、民主主義国家は少数派になりつつある。その背景には、中国が推し進める一帯一路政策の交換条件として、中国の外交主張を支持する国々が増えているということがある。
  3. 今日欧米の民主諸国がやることと言えば、途上国を支援して、これを次第に民主的、平和的かつ裕福な国に、同時にさせていき、民主国家の仲間を増やしていくということである。

(2021.7.10)

前回:論破するって何?

次回:COVID-19ワクチン接種後の有害事象をどう考えるか


(2021.8.18追記)

先日アフガニスタンの首都カブールが、反政府武装勢力・イスラム原理主義組織タリバンによって陥落し、20年続いた親米政権は崩壊した。そして、現在中国はタリバン支配のアフガニスタンと協力関係を築くことを模索している。

なぜ、米国はアフガンの統治の監督に失敗してしまったのだろうか。それはやはり、こういった途上国に対する支援や民主化施策の方法を取り違えたからだろう。別にアフガンにおける民主化施策と国民生活向上のための施策、これらの目的自体が間違っているとは言い難い。ただ、アフガンの人々の実質的な利益を考えず、単純に資金拠出を促した結果、それらは全てアフガン政府幹部のポケットに入り、アフガン政府や軍の腐敗を招いてしまったのだろう。

これを、「米国の民主化推進外交自体が間違っていた」「イスラムの地において民主主義は通用しない」とするのは、誤りである。タリバンが行おうとしているイスラム原理主義は、本来のイスラムが目指すべき理想の社会と幸福とはかけ離れたものではないか。イスラムの理想と民主主義の理想は、一致している部分も多くあり、必ずしもいつも衝突するわけではない。トルコのような世俗主義や、イランのようなイスラム共和制は、課題こそ多いが、成功が見えている。近現代に欧米からもたらされた価値観と伝統的イスラムの価値観が水と油の関係とは到底思えない。



2 件のコメント:

  1. バイデンは、確かに、最近は対中姿勢も、頑張ってるようにみえますね。というか、バイデンに比べたら、日本の方がよっぽどひどいですね。香港への対処など、しっかりしていて、私もちょっと見直してます。願わくば、途中で倒れたり、暗殺などされて、カマラハリスに交代するようなことないように、祈りたいものです。

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    1. コメントありがとうございます。
      バイデンは、上院外交委員長の経験もあり、国際自由主義者としても知られています。これから自体がどのように転ずるか、しっかり見ていくことが重要ですね。
      なお、ここからはあまりまじめな話ではないのですが、20の倍数の年に選挙で当選し翌年に就任した大統領は、1840年以降その任期途中で亡くなっているというジンクスが存在します。これは、テカムセの呪いと呼ばれていて、米大陸先住民の酋長であったテカムセという戦士が、合衆国軍と戦って敗北した後に死した時、呪詛がかけられたと言います。それから、そのテカムセとの戦いに参加したハリソンは、1840年に大統領になった後、肺炎で死亡し、その後のリンカーンやルーズベルト、ケネディなども思えば20の倍数の年の大統領選挙を経験しています。一方で最近はレーガンやブッシュなどは、呪いの犠牲者にはなっておらず、呪いが消失したとも言われています。
      本題に戻りますが、この記事で僕が言いたいのは、自由民主主義諸国が、独裁国家に比べてかなり少なくなっているようで、それに対する危機感と、やはり既存の民主国家だけでは仲間が足りないよということです。それと同時に、日本もその仲間に確実に参加するべきだということもです。日本外交にとって、今の流れは決して悪いものではありませんから。

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