2021年10月15日金曜日

ラジ難チュー難の相?【ドラえもん傑作ファイル・第7回】

 今回は、藤子・F・不二雄の晩年作である短編『ラジ難チュー難の相?』を紹介したいと思います。ただ、少し下品な内容が含まれています。苦手な人はご容赦ください。でもやはりそういう下品な要素や今では考えられないような要素も含めて、国民的漫画『ドラえもん』だと考えているので、ここで紹介させていただきます。

●基本データ
初出:「小学四年生」1990年5月号『品物運勢鏡』
単行本:てんとう虫コミックス「ドラえもん」第43巻第14話
大全集:第17巻第34話
アニメ化:1991年『品物運勢鏡』、2016年『チュー難の相に気をつけろ』

▲以下ネタバレ注意!

1.あらすじ

出木杉としずかが良い天気だから一緒に公園にスケッチをしに行こうという話を横耳で聞いたのび太は、すぐさま自分も行くと名乗り出るが、しずかは冷たく、了承はするが、のび太が果たして約束を守ってスケッチをしに来るかどうかを疑問に思い、なかなか信用してくれる様子ではない。

のび太は帰宅し、そこから今回もこそ時間通りに公園へ出かけようとするが、案の定、母親の玉子に宿題を終わらせるまで家を出てはいけないと言われてしまう。のび太は落胆するが、ドラえもんは、玉子がもうすぐお出かけに行くことを伝える。しかし、当の玉子は2着の洋服どちらを着るか迷っているようで、なかなか出掛けない。これではのび太も約束に再び遅れてしまうことになるので、ドラえもんは「品物運勢鏡」なる道具を取り出す。

この道具は、虫メガネ状の形をしていて、人間以外の何か「品物」―例えば、洋服や日用品など―をこれで覗くと、その品物の運勢が、ひらがな(カタカナ)で浮かび上がって来るという代物だ。

早速ドラえもんがこれを使って、玉子の洋服の一つを覗いてみると、そこに「すいなん」の相が出た。何かこの服を着ていると、水にまつわる禍に遭うということだが、玉子はこの占いを信用せず、そのままこの服を着て出かけて行ってしまう。すると、しばらく立たないうちに、玉子はびしょ濡れの状態で戻って来た。ホースで水を撒いていた人が間違えて彼女に水をかけてしまったのだ。

次にドラえもんが、玉子のイヤリングを覗いてみると、そこには「きんうん」の相が出ていた。彼女が触ってみると、イヤリングは床に落ちてしまった。それを取ろうと、床に手を伸ばしてみると、この前に無くした五百円玉もそこに落ちていた。占いが当たったのである。

こうして玉子は出掛けていき、これでのび太も出掛けられることとなったのだが、のび太の持ち物を品物運勢鏡でチェックしてみると、靴下に「けんうん」の相、シャツに「ジャイなん」の相、眼鏡に「スネなん」の相、ズボンに「チューなん」の相が出ていた。のび太はこれを見て、タケコプターで空から公園に行けば良いと考えるが、そのタケコプターには「ラジなん」の相が出ているとドラえもんに言われてしまった。

しかし、のび太はしつこく感じ、更にしずかから早く来いとの電話も来ていたので、怒って靴も履かずにそのまま出掛けてしまう。のび太は、空から行けば、スネ難のスネ夫も、ジャイ難のジャイアンも、チュー難のネズミも何ら関係ないと楽勝な考えで、「ラジなん」の正体も、ラジコン飛行機にぶつかることだと予測して、避ければいいと思い、空を飛んでいた。

ところがそこを、男が喧嘩の際に投げた「ラジカセ」が直撃し、のび太はタケコプターを失って下の地面に墜落してしまう。ラジ難の正体はこれだったのだ。おまけに、自分の眼鏡もその勢いでどこかに飛んで行ってしまい、それを探していたところ、歩いてきたスネ夫にその眼鏡を踏ん付けられ、レンズが割れてしまう。

その後、ようやく公園に着いて、そこでしずかを探そうとベンチに座ると、そこに付着していたチューインガムが自分のズボンにくっ付いてズボンが汚れてしまう。立て続けに起こる災難に、のび太は少し動揺していたが、そこでしずかと出木杉を発見。急いで彼女らの下に向かったが、途中に落ちていた犬の糞を、間違えて踏んでしまった。しかも、のび太は靴を履かずにタケコプターで出掛けたので、靴下で直に踏ん付けてしまったのだ。

けんうん」がこれほどまで悲惨な運勢だったのかということを嘆きながら、汚れた靴下で彼女たちを追いかけるのび太と、嫌がって逃げる2人がいた。


2.感想・アニメ化について

この話は、1991年に大山版で、2016年に水田版でそれぞれアニメ化されている。ただ、いずれの2回のアニメ化でも、そこそこの規模でアレンジが加えられているので、紹介したいと思う。

まず、1回目の1991年でのアニメ化だが、放送時間が金曜日午後7時、つまり食事時間帯だということで、上のような下品なオチは回避された。その代わり、「けんうん」=「券運」ということで、「のび太がしずかたちの下へと向かう途中で遊園地の券を拾ってしまい、そのまま約束を破って遊園地に行ってしまった結果、しずかに嫌われる」といった内容・オチの話に差し替えられている。

同じ「けんうん」でも、180度方向性が変えられてアニメ化された珍しい例である。

2回目の2016年のアニメ化だが、こちらも放送時間は午後7時という食事時間帯なのにもかかわらず、原作通りのオチが再現されている。もちろん、のび太が犬の糞を踏む瞬間は、「バン!」という効果音と共にブラックアウトされて映っていないし、原作と違って犬の糞は映されていない。

また、のび太のシャツに「ジャイなん」の相が出た時に、のび太がそれを恐れて服を着替えるシーンがある。そして、次に着替えたそのシャツには、「もてもて」の相が出ていたのだ。当然、のび太はこれを「しずかにモテモテになる」運勢だと解釈し、上機嫌になる。視聴者の方々も、そういうものだと思っただろう。しかし実際は、「のび太が『チュー難』を受難した後に、店の配達をするジャイアンに出くわし、荷物を『持て持て』と言われて無理矢理仕事を手伝わせられる」という散々な内容だった。これでは実質「ジャイ難」と大差はなさそうだ。

「けんうん」にしろ「もてもて」にしろ、この品物運勢鏡は非常に意地悪な道具である。何せ、運勢が漢字ではなく平仮名や片仮名で表示されるのだから。「けんうん」に関しては、「運勢」を占う道具なのだから、必ず「けん」だと思ってしまう。「ジャイ難」や「スネ難」は分かりやすいが、そもそも「災難」なのか「幸運」なのかどっちかははっきりさせて欲しいものである。

述べることは以上。F先生はこんな話をよく考えたものだ。

(2021.10.15)


前回:『設計紙で秘密基地を!』

次回:『45年後……』

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを投稿される際は、未来ノートの「運営方針」に示してある投稿ルールを確認していただいて、それを遵守されるようお願いいたします。投稿内容によっては、管理人が削除する場合があります。

選抜記事

多数決文化との決別【未来ノートコラムA・第12回】

多数派がいつも正しいとは限らない、それはいつだって  小学校の算数の授業で、アナログ時計は一日に何回長針が短針を追い越す(=重なる)かという問題が出されたという。選択肢は、21回、22回、23回、24回、25回の5つであった。 当然ながら、答えは22回である。算数的なテクニックを...

多読記事