2022年2月2日水曜日

1987年版日付変更チョーク【ドラえもん傑作ファイル・第10回】

 ドラえもん傑作ファイルでは今まで1~9回では原作漫画作品を中心に扱ってきましたが、もちろんこのようなアニメ作品やアニメオリジナル作品も扱っていこうと考えています。その第一弾が大山版アニメのこの作品になります。なお、『日付変更チョーク』は原作にある『日づけ変こうチョーク』のアニメ化です。

●基本データ
原作:『日づけ変こうチョーク』(一85.1/C2.18/CW16.10)
初回放送:1987.3.13(大山版アニメ第907話、初のアニメ化)

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

雨の降る日曜日。本来ならばジャイアンズの野球の試合があるはずだったが、のび太は自分の部屋で静かに過ごしている。とそこで、のび助がのび太を呼んで、昨日土曜日の新聞を知らないかと尋ねてくる。のび太は知らなかったが、タイムマシンを使えば見つけられると考えて、また2階の部屋に戻る。

ところがその時丁度ドラえもんが引き出し越しに誰かと会話していた。誰と話していたのかと聞くと、ドラえもんはタイムマシンの修理屋と話していたと答える。なんと修理は明日月曜日までかかるということで、驚いたのび太が引き出しを覗くとそこにはもうタイムマシンが無かった。

困ったのび太は取り敢えず昨日土曜日の新聞を取りに行くとのび助と約束したことをドラえもんに明かす。すると事情を聴いたドラえもんは、「日付変更チョーク」という「簡易型タイムマシン」なるひみつ道具を四次元ポケットから取り出す。このチョークは太い方の先端と細い方の先端があって、細い方の先で床や地面に円を描くと、一日前の同じ場所にタイムスリップすることが出来るのだ。逆に太い方で描けば、一日後のそこに行くことが出来る。

早速のび太とドラえもんは「昨日」土曜日の世界に向かい、部屋にあった新聞紙を見つける。用を済ませたので、ドラえもんはさっさ帰ろうとするが、のび太は例によって少し外へ散歩しに行ってしまった。その途中、「土曜日の」スネ夫に出会い、ジャイアンズの試合が日曜日にあるから、練習に向かうよう忠告される。しかし事実、日曜日の試合は雨天中止になることをのび太は知っていたので、余裕の態度を見せて、逆にスネ夫は驚く。ただ結局スネ夫はジャイアンが恐いので練習には行ってみることにした。

のび太は「土曜日の」しずかの家も遊びに訪ねるが、そこで月曜日にテストがある事を知らされ、テスト勉強をした方が良いとこちらからも忠告を受ける。つまらないのび太は帰ろうとするが、そこで野球の練習をさぼろうとしていると告げ口された「土曜日の」ジャイアンとスネ夫に出くわしてしまい、急いで家に逃げ帰る。

ところが自分の部屋に戻ってみると、そこにはドラえもんが二人いた。一人は先ほどのび太と一緒に土曜日の世界にやって来たドラえもん、もう一人は現地「土曜日の」ドラえもんである。日曜日のドラえもんは、チョークの輪を消すと元の世界に戻れることを明かし、一緒に新聞紙を持って戻る。

のび太は新聞紙をのび助に渡す。そしてその新聞が無くなったのはどうやらのび太たちがタイムスリップで土曜日にやってきてそこでそれを回収したからだと判明する。

ドラえもんは、日付変更チョークはあまり使わない方がいいとのび太に改めて紹介するが、一連の件でそれに興味を持ったのび太は、ドラえもんからチョークを横取りし、今度は明日月曜日にタイムスリップしようとする。ドラえもんはチョークを奪い返すが、時すでに遅し、のび太は明日の世界へと去ってしまった。

明日月曜日の世界で早速遊ぼうとするのび太だったが、のび太が学校から帰宅したと思ってテストの答案を見せるよう求める玉子に出くわす。仕方なく、のび太は様子を見るために、「月曜日の」のび太がいる学校へと向かう。学校の校門の前まで行くと、そこには苛立ちながらのび太を待つジャイアンとスネ夫が立っていた。

のび太は急いで昇降口から出ようとする「月曜日の」のび太の下へと駆け寄るが、当然ながら彼は未来ののび太であるので、ジャイアンとスネ夫が待ち伏せしているなどとうに知っている。二人は、ジャイアンたちを避けて学校の脇の塀から出る一方、月曜日ののび太はその日のテストの結果が零点だったと明かし、昨日日曜日に勉強しなかった日曜日ののび太を責める。ただ、そこでジャイアンたちに案の定見つかってしまい、日曜日ののび太の方は急いで自分の部屋へ逃げ帰る。

ところがどうだろう。そこにはのび太が先ほど描いたチョークの円が無くなっていた。実は、玉子が落書きだと思って消してしまったのである。すると丁度月曜日ののび太もタケコプターで帰宅した。日曜日ののび太は涙を流しながら彼に、チョークの輪が消えたせいで自分が二度と元の世界へと戻れなくなってしまったことを告げる。

しかし月曜日ののび太は安心した様子で日曜日ののび太に、月曜日になったらタイムマシンが修理から戻って来るのではなかったかと聞き返す。それと同時に引き出しから月曜日のドラえもんが出て来て、タイムマシンが直ったので日曜日に送ってやると言われる。帰り際、月曜日ののび太は日曜日ののび太にちゃんと勉強してテストの点数を書き換えてくれと言って励ます。

日曜日に戻って来たのび太は、そこでドラえもんに叱られる。ただ、のび太は澄ました顔でやり残したことをしようとするが、そこで窓の外からジャイアンとスネ夫に野球を誘われる。え、と思って外を見てみると、先ほどまで盛んに降っていた雨はやみ、空は晴れていた。野球の試合は中止にはならず、そして月曜日の世界でジャイアンとスネ夫がのび太に怒っていたのは、のび太のせいでその試合に敗れたからであったのだ。これでは勉強も何もできない。助けを求めるのび太に、ドラえもんは知らんぷりする。


考察

まず、「『現在の世界』にあるはずの物体が無くなった原因が、『現在の自分たち』が『過去の世界』にその物体を取りに行ったからだ」という話の構図は『ドラえもん』の別の作品にも存在するのだが、そういう要素に加えて原作には無かった要素も含めてアレンジされたアニメ化が行われたのが非常に良いと思った。

そして、「野球の試合」に関しても、「学校のテスト」に関しても、それが行われる(行われた)という事実が、「土曜日の世界」「月曜日の世界」に断片的な情報へと分散しつつも、並行して示されているのが非常に秀逸なシナリオかと感じた。それを、タイムスリップやタイムパラドックスなどを交えて少し不思議な印象が視聴者に残るよう描写しているのだから、そこに魅力的な部分を私は見出したい。作品としてはマイナーであが、掘り出し物としては非常に優良だ。

また、物語の最後の方では、「(テストの点数をより良いものにするために)ちゃんと勉強してきてくれ」と、既に零点の答案を受け取った月曜日ののび太が日曜日ののび太に託すというシーンがあるが、その後もとの日曜日の世界に帰ったのび太が目の当たりにしたのは、晴れた空、野球の試合が行われるという事実、そして試合のせいで勉強が出来ないという事実である。そして、この時点でもう野球の試合の結果がどうなったかは、視聴者も分かっているはずだ。なぜなら、月曜日のジャイアンとスネ夫がのび太を待ち伏せしている際に、「のび太がエラーしまくった」「すごい差で負けちゃった」と会話しているのだから。それを聞いたのび太は、その時点で野球の試合は中止だと思い込んでいるのだから、その話の「恐ろしさ」を感じることは出来なかった。

いずれにせよ、作中での一連ののび太のタイムスリップによって、未来が良い方向に改変されたことはなく、むしろ「練習をさぼる→日曜日の試合で負ける→テストの勉強が出来ない→零点を取る→ジャイアンとスネ夫にしごかれる」という悪い運命が鮮明になった。そこに、未来をそう都合よく変えることは出来ないというメッセージを感じるのだ。

まとめると、このアニメ作品は、原作にある要素を踏襲しつつ、一つの一貫としたシナリオを断片的に視聴者に知らせ、タイムパラドックスなどの面白さを交えながら、最後に意外なものも含めて全ての事実を目の当たりにさせるという非常に秀逸な構図を持っており、それが今回【ドラえもん傑作ファイル】で紹介した最大の理由である。


この【ドラえもん傑作ファイル】では、原作漫画、アニメ作品に限らず、全て公式系の作品は紹介の対象となる。今後も、世に多く知らしめたい作品をどんどん紹介していく予定だ。

(2022.2.2)


前回:『スネ夫の無敵砲台』

次回:『さようなら、ドラえもん』

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