2022年1月8日土曜日

スネ夫の無敵砲台【ドラえもん傑作ファイル・第9回】

 今回紹介するのは、後期作品『スネ夫の無敵砲台』。第6回の『設計紙で秘密基地を!』に続いて軍事関連のネタが入ったお話をここで紹介させていただこうと思います。

●基本データ
初出:「小学六年生」1985年10月号
単行本:「てんとう虫コミックス『ドラえもん』」第39巻第19話
大全集:第13巻第67話
アニメ化:1986年「無敵砲台」、2008年

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

スネ夫がやって来ると、たちまち場は不穏な空気に包まれる。道端で漫画を読んでいた安雄とはる夫はこそこそと立ち去ろうとするが、察したスネ夫に声を掛けられる。そして彼は、二人が読んでいた漫画を貸すよう要求する。しかし、二人は漫画をジャイアンに貸す約束を先にしていたため、安易に貸すわけにもいかない。やっぱり返すように追いかけるが、そこでスネ夫は二人を睨む。すると二人はすぐさま怖気づいてしまった。

仕方がないので、漫画をスネ夫に貸してしまったことを二人はジャイアンに伝えに行く。それを聞いた彼は、顔を真っ赤にして、そこを歩いていたのび太とドラえもんをも付く飛ばす勢いで、スネ夫の下に向かっていき、彼を責め立てる。しかし逆にスネ夫は、「ジャイアン!!ぼくにそんな口きいていいの?」と、また彼を睨みつける。一瞬ジャイアンの喉が詰まったかと思った矢先、スネ夫はジャイアンを指さして「発射!」と叫ぶ。

ドコーン!!

一瞬にして爆音と熱風、そして光が放たれ、ジャイアンはその大爆発の餌食となり、黒焦げにされる。そして、スネ夫はその場に背を向けて去ってゆく。

スネ夫の傲慢な態度、そして彼に逆らったら最後謎の大爆発に巻き込まれる…。一連の不可解な事件をドラえもんは、一緒に見ていたのび太に、目を閉じながら何がどうなっているのだろうと問いかける。するとすぐにのび太は白状を始める。

というのも3日前、またもジャイアンに対して喧嘩で敗れたスネ夫が、自分にもドラえもんの強いひみつ道具を譲ってくれと、お金はいくらでも出すからと懇願してきたのである。情に厚いのび太はそれを受け入れ、自分の部屋に戻るが、丁度そこには未来デパートのカタログと注文用封筒が転がっていた。それを使ってのび太は「無敵砲台」という道具をスネ夫に買ってやったのだという。

その無敵砲台という名を聞いた途端、ドラえもんは飛び上がって発狂し、その恐ろしさを語る。無敵砲台は、それをどこかにセットすれば、いつでも誰でも気に入らない奴を指さして、「発射!」と命令することで瞬間的にその人を爆撃することが出来る道具である。その砲撃は、避けることも防ぐことも出来ない強力なもので、機能をオフにするのはセットした人物にしか出来ないのだ。

仕方なく、ドラえもんも付いてきて、のび太は骨川邸まで出向き、お金を返す代わりに無敵砲台も返して欲しいとお願いする。ところが当然のようにスネ夫は、一度手に入れたのだからこっちのものだと言い、要求を断り、更には「一発おみまいするぞ!!」と強硬な姿勢を崩さない。砲台を止めるにはセットした本人がやる以外方法はなく、そこでのび太とドラえもんは砲台を破壊しようと試みる。

と言っても、それはまず砲台の設置場所を把握しないと無理な事なので、その作業から始まる。ドラえもんはスパイ衛星を取り出して、上空から砲台を探す。ただ、一通りスネ夫の置きそうな場所を探したものの、どこにもない。仕方なく、当分はスネ夫の行動を見張ることにした。すると、スパイ衛星にはスネ夫が猛犬に遭遇したところが映し出される。スネ夫は恐れてすぐさま発射と叫ぶ。その発射の瞬間を捉えんと、ドラえもんたちは画面をいっぱいに引いて町全体の衛星写真を映し出す。同時に、裏山で何かが発光し、そのまま砲台による大爆発が発生する。確かに砲台は裏山にあったのである。

場所を突き止めればこっちのものだと言わんばかりに、迷彩服を着たのび太と、迷彩柄になったドラえもんは砲台破壊部隊として裏山に急行する。するとなるほど本当に裏山には巨大な砲台がそびえていた。ドラえもんは四次元ポケットから手りゅう弾を取り出し、砲台に向けて投げつけて爆破しようと試みる。ところが、なんとそれを察知した砲台が、砲口をこちらに向けた。砲台は、スネ夫が指定した者だけでなく、近づいたものまで爆撃するのである。

二人は、すぐさま砲台から離れたのと、砲台が別の人を砲撃したことで、事なきを得たが、空から手りゅう弾で爆破する作戦は失敗に終わった。そこで、今度は砲台がそびえる下の崖をかくれマントを着ながら登って、砲台のレーダーに察知されないよう工夫する。しかし、のび太が崖を踏み外して音を立てたことでレーダーはそれを察知し、砲口を向けられ砲撃され、のび太たちは黒焦げになる。のび太は「砲台に近づけるのはスネ夫だけだ。」と呟く。

しかし、その言葉をヒントにドラえもんはあることを思いつく。

一方そのころスネ夫は、自分が町を歩くと皆こそこそと逃げることに、偉くなったようだとして満足していた。しかし、後ろから彼にこっそりと触る者がいた。スネ夫が振り返ると、そこには入れかえロープを持ったのび太がいた。一瞬にしてのび太とスネ夫は、心と体が入れ替わり、のび太はスネ夫の体を手に入れる。つまり、外見上はスネ夫の体の中に、のび太の精神があるという状態になったのだ。

これで無敵砲台は、その持ち主を(外見スネ夫の)のび太だと認識するようになり、早速のび太はスネ夫(外見のび太)を砲撃するよう命令する。何回か連続爆撃したところで、スネ夫(外見のび太)は降参し、砲台を返すことを認める。ドラえもんはのび太とスネ夫の入れ替わりを解除し、砲台を未来デパートに送り返す。

こうして、結果ひどい目に遭ったスネ夫は観念してその場を去っていくのであったが、のび太は当然ながら満身創痍の状態である自分の身を嘆く。そんなドラえもんは彼に「がまんしろ。もともときみの責任なんだから。」と話しかける。


考察

 この話でまず衝撃を受けるのは、無敵砲台の威力だろう。相手をいつでも攻撃できる道具と言えば、このシリーズでも扱ったペンシル・ミサイルである。ペンシル・ミサイルは、スイッチを持って標的の名前を指定することで、セットしておいたミサイルで相手を攻撃できる道具だが、威力はミサイル単体ではそこまで強くない。しかし、無敵砲台は、当然その巨体から連想されるように、一発で相手をこれまでになく黒焦げにするほどの威力を持ち、爆発も火花を伴うものである。これを作中のスネ夫のように連射されたらたまったものではない。

また、ちまたで議論がなされているのが、砲台の場所を突き止めて砲台破壊部隊が出動するシーンなのだが、のび太は迷彩服と迷彩帽を着ている一方、ドラえもんも迷彩服を着ている、と思いきや、ポケットの周りや顔の白い部分は迷彩柄になっておらず、露出している。これはどういう服を着ているのか、あるいはドラえもんが自分の普段青い部分に特殊なコーティングをしたのか、といろいろ言われているようだ。なおしかし、水田版アニメで2019.7.19に放送されたアニメオリジナル作品『イロガラドラえもん』では、インスタントファッションワックスというワックスを塗ることで、その塗った部分(=ドラえもんの青い部分)を違う柄に変更できるという譚があった。

そして話の最後の、砲台の持ち主と入れ替わったのび太がスネ夫を攻撃するシーンだが、確かに今まで散々苦労して砲台を取り返そうとしながらやられてきたスネ夫への仕返ししたい気持ちは分かる。でも、でも、結局傷めつけているのは自分の体というわけだ。そしていざ戻ってみれば満身創痍たるのは己の身である。こういう後先考えないのび太の性格がここに来て際立っているのが、話の見どころの一つだ。

ちなみに、結局「無敵砲台を止める手段」=「入れかえロープ」という話の結果になった訳だが、それにしても初めてこの話だけ読んだ(観た)人は、「いきなり入れかえロープを何の伏線もなしに使ってくるのは反則ではないか、ただでさえ2000以上のひみつ道具が存在する中で」と思うかもしれない。御尤もである。ところが、よく考えてみれば伏線、というより、入れかえロープをここで登場させる合理的な理由はちゃんと存在することをここで明かそう。

以下の一覧は、小学館「小学六年生」の1985年連載『ドラえもん』作品である。

  • 7月『男女入れかえ物語』
  • 8月『大人気!クリスチーネ先生』
  • 9月『45年後……』
  • 10月『スネ夫の無敵砲台』
  • 11月『四次元くずかご』
なんと、「スネ夫の無敵砲台」発表前3か月以内に、入れかえロープが登場する話(⇐で示してある)が2つもあるのだ。つまり、当時原作漫画を学年誌で見ていた人たちにとってみれば、「まさか」の登場ではなく「またか」の登場なのだ。アニメを観たり、単行本を読んだりしていて、「まさか」の登場があった時は、その初出を調べて前後の掲載作品も読んだ方が良いかもしれない。例えば『連想式推理虫メガネ』(四82.3/32.17/CW11.49)が挙げられる。


『スネ夫の無敵砲台』などに関して挙げられることはこれくらいだろうか。以上で記事を締めさせていただく。

(2022.1.7)


前回:『45年後……』

次回:1987年版『日付変更チョーク』

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