2022年4月1日金曜日

帰ってきたドラえもん【ドラえもん傑作ファイル・第12回】

 名作『さようなら、ドラえもん』は、漫画『ドラえもん』を完結させるために当初描かれたものであったが、一転して作品の続行が決定し、その続編として描かれたのがこの『帰ってきたドラえもん』。『ドラえもん』の名作ランキングを作るとしても、この二部作が1位2位を争うほどの傑作。

●基本データ
初出:「小学四年生」1974年4月号
単行本:「てんとう虫コミックス『ドラえもん』」第7巻第1話
大全集:第4巻第37話
アニメ化:1981年、1998年(映画)、2009年「さようならドラえもん」※いずれも『さようなら、ドラえもん』との合作

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

ドラえもんがいなくなった日々をただぼんやりと過ごすのび太。そんな彼を見た母親の玉子に促されて、のび太はもう一度気合を入れ直して、明るく暮らしてみようと決心する。

―――4月1日。

スネ夫がのび太の家の下にやって来る。彼が話すことによれば、何とあの幻の蛇ツチノコを空き地で発見したのだという。当然捕まえれば大発見となるので、のび太は大興奮。スネ夫を手伝うために、彼と一緒に空き地へ出向く。

どうやらツチノコは空き地の土管の中に追い込んでいるとのこと。スネ夫は、のび太に土管の中を棒でつついてもらい、自分が出て来たところを捕まえようと言う。早速のび太はそこにあった枝で土管をガラガラとつついてみた。ところが、そこから出て来たのはツチノコではなく、ウーという唸り声と共に飛び出してきた凶暴な野良犬であった。

すっかりボロボロにされてしまったのび太は、町中を歩いている途中、今度はジャイアンに出くわす。ジャイアンは急いで興奮した様子でのび太に近づき、そして恐る恐る耳元でこう囁く。

い、いまそこで、だ、だれにあったと思う? ド、ラ、え、も、ん。

これを聞いた瞬間、のび太は大声でそれを口にして驚き、そして喜びのあまりジャイアンをも突き飛ばす勢いで、彼の名前を叫びながら、家に帰ってきた。居間や台所など色々な部屋を開けて彼の姿を見ようとする。しかし、玉子に尋ねたところ、ドラえもんが戻って来た事なんて全然知らないという。

のび太はいるはずのドラえもんの態度を訝しく思うが、多分あんなに涙して別れた後の再会を恥ずかしく思っているのだろうと考えて、自分の貯金を有りっ丈使い下ろして、どら焼きを買いに店へ向かう。 

ところがその途中、ジャイアンとスネ夫が彼を待ち構えるようにしてニヤニヤとしながら話しているのに、遭遇した。それに気づいたのび太は、二人の話に入って聞こうとするが、そこに待っていたのは残酷な事実であった。

そう、ジャイアンのドラえもんが帰ってきたという話は、エイプリルフールの嘘話だったのだ。さっきのスネ夫のツチノコの話もそうで、二人はどちらの嘘話の方が鮮やかにのび太を騙せるかを競っていたのだ。のび太は当然それに憤り彼らに怒るが、エイプリルフールに怒る奴があるか、悔しかったらお前も嘘をついてみろと言われ、突き放されてしまう。

独り自分の部屋で絶望するのび太。しかし、そこで彼は、ドラえもんがここを去る前に、ドラえもんが行った後何か本当に我慢できないことがあれば、一回きりではあるがこの箱を開けろと言って、押し入れにドラえもんの姿を模った箱を置いていったのを思い出す。早速のび太はこのドラえもんボックスを取り出し、開けてみる。そこに入っていたのは、液体の入ったフラスコであった。

この液体の名前は「ウソ800(エイトオーオー)」というひみつ道具。この飲み薬を飲むと、そこからしゃべったことが実際に嘘になるという。エイプリルフールにぴったりな道具である。のび太はこれを飲んでジャイアンとスネ夫に先ほどの仕返しをしようと空き地に出向く。

やけに張り切ってやってきたのび太を見たジャイアンとスネ夫は、のび太が何か嘘話を持ってきたのだと察して、彼を嘲笑うようにそれを聞こうとする。ところが、のび太は二人の下を通り過ぎて、空き地の土管の中に入る。そして、「今日はいい天気だ。」と一言。何のことか分からないジャイアンとスネ夫は困惑するが、その途端突然豪雨が降り出して、二人はびしょ濡れになってしまった。逆に今度は「はげしい雨が降ってきた。」と一言。その瞬間雨は止んだ。

なにをしやがるとのび太に怒るジャイアンとスネ夫を、のび太はエイプリルフールだから嘘をついたのだと言ってかわす。そして、スネ夫に向かって「きみはイヌにかまれない。」と言い放つ。すると、どこからともなく野良犬が現れ、スネ夫は追い掛け回されてしまう。その様子に慄いたジャイアンにも容赦しないのび太。今度は彼に向かって、「きみはね……、ママにほめられるね、いやというほど。」と。すぐにジャイアンの母ちゃんがそこに現れ、彼は連行されていってしまう。

ジャイアンとスネ夫に復讐を果たしたのび太。一時的に爽快感を得るのび太であったが、その後に直面したのは、結局ドラえもんは帰って来ないのだという現実であった。家に戻って、玉子にドラえもんはいたのかと尋ねられるのび太。

ドラえもんがいるわけないでしょ。ドラえもんは帰ってこないんだから。もう、二度と会えないんだから。

そして奇跡は起こった。のび太が徐に自分の部屋のドアを開けた先に、何とこちらの方を向いたドラえもんの姿があったのだ。のび太が帰ってきたのを見止めたドラえもんは、すぐに彼の下へ駆け寄る。なぜか分からないが、とにかくまた現代世界に来てもよいことになったのだという。そして、ドラえもんは床に転がった空のウソ800のフラスコを見つける。ドラえもんが帰って来れるようになったのは、ウソ800を飲んだ状態ののび太が、ドラえもんが帰って来ないと口にしたからだったのだ。

うれしくない。これからまたずうっとドラえもんといっしょにくらさない。

そう言ってのび太はドラえもんとの再会を泣きながら喜ぶのであった。 


考察

何かここに記すまでもなく、感動の名作であるところは間違いない。

それにしても、この話に登場するジャイアンは本当に悪役なのだなと尽く尽く実感させられる。『ドラえもん』は基本的に一話で話の流れが完結するというタイプの漫画で、この『さようなら、ドラえもん』と『帰ってきたドラえもん』のような前後作が繋がっているのは珍しい方なのだが、とにかくそれゆえに話と話とで登場人物の関係が大きく変化する。ジャイアンがいつものび太にとっての脅威であるのは基本線だが、たまには一緒に遊んでみたり、協力したりするし、大長編では共に敵と戦う。

大長編は、『ドラえもん』のテレビアニメ(大山版)が放送開始されてから映画製作の準備的な位置づけで製作されてきたが、これらは作品としては中後期のものである。一方、今作のような話は、1970年代前半が初出と、初期作品に位置づけられる。これらは作品黎明期であるので、まだ作品自体のバラエティが乏しい時代で、ジャイアンが敵であり悪役だという構図がはっきり現れている。

重々しく構えて男気を存分に見せつける大長編のジャイアン、対して特に作品初期に見られるのび太にとっての大きな壁、脅威、悪役たるジャイアン、どちらも好きだ。やはり多様なキャラクターが多様な性格を持って主人公と関わっていくスタイルだからこそ、『ドラえもん』は今後何十年にも渡って愛され続けていくことになったのだろう。

前回の『さようなら、ドラえもん』の考察記事でも書いた通り、この『帰ってきたドラえもん』以降、実に1000を超える原作漫画作品が誕生してきた。その事実は、この話が今後の『ドラえもん』作品としての「大きな展開」の一つのスタート地点になっていることを示す。『ドラえもん』の歴史を語るうえで避けては通れないエピソードになって来る。

(2022.4.1)


前回:『さようなら、ドラえもん』

次回:『マジックボックス』



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