2022年4月23日土曜日

マジックボックス【ドラえもん傑作ファイル・第13回】

 今回紹介する作品は「てんとう虫コミックス」45巻のうち未収録の前期作品ですので、あまり知名度は低いのかなと思います。そんな埋もれた名作をどうぞ。

●基本データ
初出:「小学四年生」1974年6月号
単行本:中公コミックス 藤子不二雄ランド『ドラえもん』第3巻第3話
大全集:第4巻第39話
アニメ化:2018年

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

本屋で買った「小学四年生」5月号を取られたジャイアンに、それを返すよう言うのび太。しかしジャイアンはそれはとっくに返してあると主張する。もちろんそんなことは絶対に有り得ない話なので、のび太は思わずそんなことは嘘だと叫んでしまい、ジャイアンと喧嘩になってしまった。

そこをスネ夫が通りかかって二人を仲裁する。ところが、スネ夫は今回の件についてはのび太が悪く、ジャイアンは嘘をついていないと一方的に言われてしまう。「第三者」の言うようなことにのび太は反論できず、結局漫画は帰って来ないどころか、逆に謝らせられることとなってしまったのだ。

そんな窮状をドラえもんに訴えるのび太。するとドラえもんはポケットから目玉が真ん中に付いている筒と、人一人入れる程度の大きさの箱とを取り出す。二つ併せて「マジックボックス」という道具で、箱の中には3つの穴が開いており、まず、下の穴に足を入れると、筒の下側の穴からその足が出て、自分の足を動かすことによって筒を歩かせることが出来る。また、中央の穴に腕を入れると、筒の上側の穴からその腕が出て、何か物を取ったりなどすることが出来る。更に、上の穴を覗くと、筒に付いている目玉が見ている景色を見られるのだという。

早速、これを使って「小学四年生」を取り返しに行こうとするのび太。剛田商店の玄関の戸を開いて、ジャイアンの家の中に入る。ジャイアンの母ちゃんは、玄関へ出迎えようとするも、誰もいないのを不思議がる。その傍を通り過ぎてジャイアンの部屋へ筒を直行させる。

部屋に入ったところ、ジャイアンは丁度本棚を背にして寝転がりながらお菓子を食べているところだった。案の定「小学四年生」はジャイアンの本棚の中にあり、それを掴み取ってマジックボックス経由でのび太は漫画を取り返す。買ってから1か月待ってようやく本を手に入れられたことを嬉しがる。

目的は果たしたものの、ここでジャイアンをぎゃふんと言わせてやろうと考えるのび太。寝転がるジャイアンをマジックボックスから生えた足で後ろから思い切り蹴飛ばす。突然得体の知れない誰かに蹴り上げられたジャイアンは、怒りながら不思議がるが、そこで不審な「筒」を発見する。何となく不気味さを感じたジャイアンはそれを窓の外へと放り投げる。

ところがそこにスネ夫がジャイアンの家へ訪ねてきた。皮肉にも、スネ夫も、ジャイアンに取られた本「こども百科事典」について、既に返してあると嘘をつかれており、今一度の催促をしに来ていたのだ。それを知ったのび太は、ジャイアンの部屋の本棚に戻って、やはりその中にあった「こども百科事典」を見つけて取り出す。そしてそれをジャイアンと口論するスネ夫の手の中に持たせる。

何か本を突然掴まされたと感じたスネ夫。恐る恐るその表紙を見てみるとそれは紛れもない「こども百科事典」のものであった。それを見たジャイアンは、持ってる本の催促なんかしやがってと言い、スネ夫をボコボコにする。意味が分からずスネ夫はジャイアンの家を後にする。

しかし、ジャイアンは自分がスネ夫を殴るところを母ちゃんに思いっきり見られており、またお友達に乱暴したねと言われて、ガミガミと叱られてしまう。それを見届けたのび太は、今度は筒から生えた手でジャイアンのお腹をくすぐる。当然、ジャイアンはくすぐったがって叱られている最中なのに大笑いをしてしまう。すると、母ちゃんは叱られているのに笑うとはどういうことだと彼を咎め、ジャイアンは更に叱られてしまう。

その顛末を見届けて、マジックボックスを家に帰らせようとするのび太。ところが、お説教が終わったジャイアンに、その筒を動かしているところを見られて捕まえられてしまうと同時に、ジャイアンはこれがドラえもんの道具だと思ってのび太の家に直行する。が、その途中、のび太は機転良く、ジャイアンに筒本体を掴まれながらも、筒から生やした足でそこら辺を歩いていた野良犬を蹴飛ばす。当然その野良犬はそれがジャイアンの仕業だと思い込んで、彼を追いかける。

助けを求めるジャイアンに、のび太とドラえもんは「そんなつつなんて知らないなあ。」と知らんぷりするのであった。


考察

この話の見所は、話の後半に立て続けに様々な面白い出来事が展開されるというところにある。大まかな流れとしては、①のび太が「小学四年生」を取り返す、②のび太が仕返しにと言わんばかりにジャイアンを後ろから蹴飛ばす、③スネ夫に「こども百科事典」を掴ませて仕返しをする、④ジャイアンの腹をくすぐって、ジャイアンをお説教をしている母ちゃんの前で大笑いさせる、⑤筒に気づいたジャイアンを返り討ちにする、というふうになる。

このように、とにかく展開の仕方が速くて、もちろん速すぎるということではないが、要するに、飽きずに我々読者が笑い続けられるような仕組みになっている話なのだ。

残念ながら、この話はなぜか「てんとう虫コミックス」を始めとする小学館の発行する単行本レーベルには収録されていない。これらの単行本は基本的に作者のF氏の自撰であるが、選ばれなかった経緯については存じていないのでここには書けない。だが、やはり他の名作と肩を並べるだけの面白さを備えている作品であり、他の人にもぜひ知って読み、あるいはアニメを観てもらいたいという作品であるなと日々つくづく感じさせてもらっている。

アニメ化は、水田版2018年の一回のみだが、しっかりと原作に忠実にこれらの話の展開が再現されていて良いと感じた。やはりアニメだと臨場感も伴うので作品の魅力を増幅させられる。最後の展開は、ジャイアンが犬に追い掛け回されるのではなく、ジャイアンが筒をマイクカバーだと思って家で歌を歌うという、原作とは逆でのび太たちの方が窮地に陥るというものに変わっていたが、それはそれで良いと思う。このアニメ化を機に作品の知名度がかなり上がったのは事実だろう。

(2022.4.23)


前回:『帰ってきたドラえもん』

次回:『わすれとんかち』


0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを投稿される際は、未来ノートの「運営方針」に示してある投稿ルールを確認していただいて、それを遵守されるようお願いいたします。投稿内容によっては、管理人が削除する場合があります。

選抜記事

多数決文化との決別【未来ノートコラムA・第12回】

多数派がいつも正しいとは限らない、それはいつだって  小学校の算数の授業で、アナログ時計は一日に何回長針が短針を追い越す(=重なる)かという問題が出されたという。選択肢は、21回、22回、23回、24回、25回の5つであった。 当然ながら、答えは22回である。算数的なテクニックを...

多読記事