2022年6月25日土曜日

わすれとんかち【ドラえもん傑作ファイル・第14回】

 2か月ぶりの更新。今回取り上げるのは初期作品。ゲストである記憶喪失症の男を巡るドタバタ劇が展開される。

●基本データ
初出:「小学四年生」1970年11月号
単行本:てんとう虫コミックス『ドラえもん』第5巻第5話
大全集:第1巻第14話
アニメ化:1973年「私は誰でしょうの巻」、1979年、2017年

▲以下ネタバレ注意!


あらすじ

のび太とドラえもんとスネ夫が骨川邸で遊んでいたところ、家に見知らぬ男が入って来た。その男は、記憶喪失で、一軒一軒回って自分の家を探しているのだというが、まもなく骨川一家に追い出される。帰りにもその男を二人は見たが、そこで男は空腹で倒れてしまう。気の毒に思った二人は、彼を家に連れて帰り、ご飯を食べさせる。

そして食後、これからどうするか三人は相談することになる。しかし一向に男は自分の記憶を思い出せない。そこでドラえもんはためらいながらもポケットから記憶をたたき出すとんかちを出そうとする。このとんかちで頭を叩けば、記憶をなくした人でも、その記憶の一場面を映し出すことが出来るのだが、うまくいかないと大変なことになってしまうのだという。

男はそれを聞いて怖がるが、それしか手段がないのでそうすることにする。ドラえもんが早速男をとんかちで殴る。すると、男の目から何か映像が投射された…と思ったのだが、それは先ほど野比家で食べたご飯の映像だった。仕方なくもう一度叩くと、なんと男が東京タワーから落ちていく映像が流れたではないか。男はこの時のショックで記憶を失ったようだ。

更に叩き続けると、男の車に轢かれたり、悪人に斬り付けられたりするという驚きの映像が映し出される。更に、住んでいた家を思い出させると、なんとお城の映像が映された!更にものすごい量の札束を傍らにお札を数える男の姿も。そしてドラえもんは一つの結論を得る。そう、男はお城みたいな屋敷に住める大金持ちで、いつも悪人に命を狙われているのだと。

すると男は確かにそんな覚えもあると頷き、二人に自分の家を見つけてくれたら100万円あげると言って、探しに行かせる。二人はクラスメートにも家のありかを尋ねるが、それを聞いていたスネ夫は、男がそんな金持ちだったのかと後悔した後、一思案する。男がとんかちを持ちながら野比家を出たところを捕まえて、骨川邸に招き、注文した寿司料理をごちそうする。

食後、スネ夫たちは男の住んでいる家がどんな家かを尋ねたため、男は持っているとんかちで自ら頭を叩いて見せようとする。しかし先ほどとは違って、映し出されたのは豪華なお城ではなく、小さな蜘蛛の巣が張られた小屋で貧しく過ごす男の姿だった。やり直しても同じような映像が映し出されるのが続くのに、さすがの骨川親子も我慢ならず、男を家から追い出す。

男は諦めきれずもう一度頭を叩くが、何とそこにはコートを着て次々と警官を銃撃する男の映像が流された。男の正体はギャングだったのかと骨川親子が驚嘆しているあいだに、男もそんな覚えもあると言って、スネ夫の母を恐喝する。しかし背後からスネ夫がえいとばかりに落ちてたとんかちを男の頭に振りかざす。

すると男は狂い踊りながら、次々と目から様々な映像を投射する。コングに扮して塔によじ登る男、宇宙服を着て銃を構える男、帯刀して刀を構える男……。実は男の正体は悪役を演じる俳優だったのだ。そうこうしているうちに、のび太とドラえもんは、映画のセットだったお城を発見して落胆して帰って来た。だが、そこにはとんかちで殴り合いをした結果おかしくなってしまった骨川親子と男がいた。

(『オンラインドラえもん百科事典』より引用)


考察

初期作品には、あらすじにあるような、ドラえもんの未来世界の道具が家の外に持ち出されて様々な騒動を引き起こすというドタバタ劇が多い。これは、『悪運ダイヤ』や『タイムふろしき』など有名な作品にも言えることである。

話の流れを整理すると、

①記憶喪失で空腹に家を探す気の毒な男

②ドラえもんたちがひみつ道具で助けてあげようとする

③そこに骨川親子が介入する

④男と骨川一家は頭がおかしくなる、男の正体は悪役スターだった

という感じだ。個人的に気になったのは、この話の中のゲストキャラクターである男の扱い。男の漫画中での人物描写が、この漫画作品全体を盛り上げているという印象がある。まず、この男は冒頭でのび太たちに気の毒がられ、野比家でご飯を頂くことになる。この時点では、男=かわいそうな、同情すべき人物として描かれているように見える。

しかし食べ終わった後、のび太の母の玉子に向かって、「もしかして僕のママですか?」と失礼な言動をする。さらに食後の相談で、ひょっとしたら使うともっとおかしなことになってしまうかも知れないリスクを孕んでいる「記憶映写とんかち」を使うにあたって、男は「まずのび太たちでテストして大丈夫だったら自分が使う」と、いわゆる「下衆」な提案をしてくる。

そこからだんだん読者は男に同情しなくなり、作者の狙いである「謎」の存在として見られていくようになる。

結論を先に言えば、男がこのようにだんだん下衆な性格に思われていくように書かれていくのは、作品のオチである「男は『悪役』スターだった」という部分を強調させるための役割を持っているからだろうと私は思う。

ただもちろん、男はこうして作者の見えざる手によって、食後から急に「悪役」になったとは当然言えない。男は自分の家を探しに一軒一軒回っていると言っていたが、実際訪れているのは骨川邸や立派な盆栽のある家など、いかにも居心地がよさそうな家ばかりのように感じられる。これは私の個人的な感想なのだが、やはりこういうところからも男の利己的で自己中心的な性格が露になってきているのではないかなと考える。

(2022.6.25)


前回:『マジックボックス』

次回:『バリヤーポイント』


0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを投稿される際は、未来ノートの「運営方針」に示してある投稿ルールを確認していただいて、それを遵守されるようお願いいたします。投稿内容によっては、管理人が削除する場合があります。

選抜記事

多数決文化との決別【未来ノートコラムA・第12回】

多数派がいつも正しいとは限らない、それはいつだって  小学校の算数の授業で、アナログ時計は一日に何回長針が短針を追い越す(=重なる)かという問題が出されたという。選択肢は、21回、22回、23回、24回、25回の5つであった。 当然ながら、答えは22回である。算数的なテクニックを...

多読記事